古代生態系の謎―白亜紀に息づいた捕獲の進化

古代の昆虫がどんな方法で獲物を捕まえ、当時の生態系にどう関わっていたのかは、化石の断片的な手がかりから推測するしかありません。
昆虫は地球上でもっとも多様な動物グループとされ、現在だけでも100万種以上が知られています。
中には、カマキリやカマキリモドキ(Mantispidae)が鎌状の前脚をもったり、ドライニッドバチ(Dryinidae)がはさみ状の前脚でヨコバイを捕まえたり、トラップジョーアント(trap-jaw ants)がバネ仕掛けの顎をもつなど、獲物を捕獲するために進化したユニークな構造が存在します。
しかし、こうした“捕獲武器”が白亜紀の昆虫にもあったのか、そしてどのような仕組みだったのかはまだ十分に解明されていません。
そんな謎に挑む材料として近年注目されているのが、約9900万年前の樹脂が化石化したカチン琥珀です。
ミャンマー北部のカチン地方で産出する琥珀からは、当時の昆虫が精巧に封じ込められた姿が多数発見されており、「サーベルのような顎」をもつ絶滅アリなど、現生種には見られない特殊形態が次々と報告されています。
今回の研究チームが注目したのは、このカチン琥珀から見つかったメスの化石寄生バチ16体です。
一見すると普通のハチに近い姿に見えますが、腹部(※腹の部分)の先端を詳しく調べると、上下2枚と中央1枚、合わせて3つのふた(小さな扉のような板状パーツ)が重なり合っていました。
さらにふたの縁には長い毛が並び、食虫植物のハエトリソウがもつ感覚毛のようにも見えたのです。
どうしてこのような“ハエトリソウ的”な構造を腹部が獲得したのか。当初、研究者たちは首をかしげましたが、現生の寄生バチもホストを一時的に動けなくするための多彩な手段をもっていることから、捕獲や産卵時の戦略として進化した可能性が浮上しました。
実際、同じカチン琥珀から見つかった他のバチやアリにも、現生にはない捕獲戦略を思わせる痕跡が認められています。
そこで今回の研究チームは、微小CTスキャン(X線で標本を3次元的に可視化する方法)など最先端の観察手法を使って、この腹部内部の構造と筋肉の痕跡を詳しく調べ、さらには近縁の寄生バチや捕食性昆虫と比較することにしました。