職人芸に頼る不妊治療の限界

不妊治療の世界では、卵子と精子を顕微鏡レベルで操作して受精させる顕微授精という技術が広く行われています。
これは、まるで職人が極小の宝石を一つずつ手作業で磨き上げるかのような精巧さが求められ、術者の熟練度やその日のコンディションによっても仕上がりが変わってしまうという特徴がありました。
いくら成功率が高いといっても、人によるばらつきや集中力の限界は避けられません。
こうした制約を打破する鍵として期待されているのが、自動化と人工知能技術の活用です。
自動運転や産業用ロボットがそうであるように、もし受精のプロセスすら正確無比に機械が行えるならば、時間や場所を問わず安定した成果が得られるだけでなく、熟練技術者が不足する地域でも恩恵を受けられるようになります。
顕微授精は1990年代に実用化されて以来大きな技術変化が少なかったのですが、ここへきて人工知能やロボット工学を組み合わせることで「人間の手を使わずに、ほぼ自動で受精を成立させる」試みに火がつき始めました。
そこで今回研究者たちは、顕微授精のミクロレベルの作業工程を包括的に自動化すると同時に、遠隔地からも操作・監視できるシステムを構築し、その実力を実験的に確かめることにしました。