パウリ(左)ユング(右)/Credit:Wikimedia Commons
philosophy

「量子物理学者パウリ」と「心理学者ユング」物質と意識を結びつける意外な研究

2025.05.10 23:00:05 Saturday

量子力学世界では、電子れる状態しく制限する「パウリ排他原理」という重要理論があります

この原理つけ、1945 ノーベル物理学賞受けヴォルフガング・パウリは、理性計算権化よう存在した。

ところがは、“偶然一致”や“夢と現実のつながり”という一見科学現象強い関心き、無意識象徴研究てい心理学者カール・グスタフ・ユングと交流がありました

物質最小世界した物理学者と、深層探る心理学者。この二人の意外出会いが「性(シンクロシティ)」という概念す。

ユングは集団的無意識など特殊な理論の数々を発表していますが、証拠がなく基本的には正式な科学としては扱われていません。

しかし、現代においても彼の提言には多くの人々が関心を寄せています。

ユングとパウリ。まるで異なる分野の二人は、一体どのようにして出会い、どんな議論重ねたのでしょうか?

今回は、正式な科学として受け入れられてはいないものの、この二人が生んだ興味深い哲学的な理論について紹介します。

Jung and Pauli: A Meeting of Rare Minds(PDF) Click to access s7042.pdf https://assets.press.princeton.edu/chapters/s7042.pdf The Pauli–Jung Conjecture and Its Relatives: A Formally Augmented Outline http://dx.doi.org/10.1515/opphil-2020-0138

なぜ量子物理学者が、無意識の研究者に出会ったのか?

ヴォルフガング・パウリ(Wolfgang Pauli)は、量子力学の誕生において欠かすことの出来ない重要人物であり、20世紀初頭の理論物理学を牽引した天才の一人です。

かなり早熟の天才だったパウリは、学生時代には授業が退屈だからと机の下に隠して相対性理論の論文を読んでいたと言われており、21歳のとき書いた相対性理論の解説には、アインシュタイン本人も称賛を送ったといいます。

そして20排他原理打ち立て、原子構造化学結合一気に説明し、後にノーベル物理学賞を受賞します。

しかし、その輝かしい業績の裏で、パウリは私生活ではかなり精神を病んでいました。

母の自殺、短期間での離婚、それに非常に難解な量子力学の世界。

パウリのような天才にも、物理学の世界から新たに広がった量子力学はかなり難解であり、苦労することが多かったようです。彼は「ともかく物理学は難しすぎて、自分が物理学など何も知らない喜劇役者だったらよかったのにと思う」という言葉も残しています。

さらに、仲間の物理学者ラルフ・クローニヒ(Ralph Kronig)が示した電子が実は自転しているという「電子スピン(electron spin)」のアイデアを相談された際、「電子はそんなふうになっていない」とかなり冷淡な態度で退けてしまったことも、パウリに深い後悔をもたらしました。

ラルフは天才のパウリに否定されたことで、電子スピン理論の発表を諦めてしまうのですが、そのすぐ翌年に、そっくりなアイデアを、ウーレンベック(Uhlenbeck)ゴーズミット(Goudsmit)という二人の学者が発表し、あっさり世間に受け入れられ、高く評価されてしまうのです。

そのためラルフはかなりパウリを恨んだといいます。

こうした出来事が重なってかなり精神的に参っていたパウリは、1932年、友人たちすすめ心理分析受けることにしました。

そこで彼が尋ねたのが、チューリッヒ大学の心理学者カール・グスタフ・ユング(Carl Gustav Jung)だったのです。

そこでパウリは「自分の無意識に理性が侵されている」と語り、いくつもの夢の記録を報告します。このパウリの夢の内容はユング自身を驚かせるものでした。

夢に現れる象徴の数々――たとえば「4つの視点を持つ回転する鏡」や「幾何学的に分割された円盤」、「数秘的な構造を持つ対称図形」などは、ユングが“心の構造”を探るために用いる「マンダラ(mandala)」という象徴に非常に近いものだったのです。

しかしそれだけではありません。ユングがこうした夢の内容を分析した説明は、二重性」「像」「同時に成立しない視点統一」などを示しており、それはニールス・ボーアが提唱した相補性のアイデアを想起されるものだとパウリは感じたのです。

相補性というのは後にコペンハーゲン解釈と呼ばれることになる理論の元になるもので、つまりは「観測するまで物事の状態は確定しない」という考え方に通ずるものです。

このため、パウリはユングの分析に自分の無意識物理原理が反映されていると驚き、ユングもまた、パウリが無意識の深層と強く結びついている特異な被験者であると興味を抱きます。

パウリのように、科学の最先端を扱う理性の人が、まるで物理学の抽象概念そのものを象徴するような夢を自らの内面から生み出している――これはユングにとって極めて興味深いことだったのです。

やがてパウリは1000を超える夢を記録し、ユングとともにそれを分析していくことになります。

この分析を通じて二人がたどり着くのが、「心」と「物質」の世界をつなぐ共通の基盤が存在するのではないか、という仮説でした。

そしてそれは「共時性(synchronicity)」という理論へと結実していきます。

次ページ共時性――心と物理が交差する“意味のつながり”

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