電子の性質「スピン」を利用した「スピントロニクス」とは?
スピントロニクスは「Spin(スピン)+Electronics(エレクトロニクス)」から生まれた言葉です。
通常のエレクトロニクスが電子の電荷だけを利用しているのに対し、スピントロニクスは電子の持つもう一つの性質であるスピンも活用します。
スピンとは、電子の持つ「小さな磁石のような性質」のことであり、これを利用することで、より速く、より効率的に情報を処理することが可能です。

スピントロニクスの分野として代表的な例は、1988年の巨大磁気抵抗効果(GMR)の発見です。
これにより、ハードディスクドライブの磁気読み出しヘッドが開発され、記録密度が飛躍的に増大しました。
このように、スピントロニクスによって実現できる技術には、低消費電力、高速動作、高耐久性といった利点があります。
そして現代でも、人工知能やモノのインターネット化(IoT)の進化に伴い、情報処理の拘束か・大容量化・省電力化が求められており、これにスピントロニクスが役立つと考えられています。
しかし、従来のスピントロニクス材料には大きな課題がありました。
スピントロニクスの中核となるのが、「スピン流(電子の磁気の流れ。電気と違ってエネルギーロスが少ない)」ですが、高効率なスピン流生成のためにプラチナやタングステンといった重金属レアメタルが必要だったことです。
しかし、レアメタルは高価で産出国が限られている上、環境負荷も大きく、今後の持続的なデバイス開発には適さないと考えられてきました。
そこで研究チームは「レアメタルを使わず、なおかつ高性能なスピントロニクス材料を開発する」という野心的な課題に挑みました。