思ったよりえげつないことをしている「赤痢アメーバ」

赤痢アメーバは、古くから赤痢の原因として知られるだけでなく、人間の免疫を巧みにすり抜ける性質がある寄生虫としても注目されてきました。
世界保健機関(WHO)の推計では、年間およそ5000万人が感染し、最大で7万人以上が亡くなるともいわれています。
感染後に腸内で増殖するだけでなく、肝臓など他の臓器へ侵入し、重篤な症状を引き起こすケースもあります。
にもかかわらず、たとえばマラリアや結核など他の感染症と比べると、研究の優先度は低く、驚くほど多くの部分が未解明のまま残されてきました。
近年の観察によって、赤痢アメーバがヒトの細胞を“かじり取る”ように破壊する動きを見せることが分かってきました。
一部の研究者たちは、この微生物を「スキンウォーカー(Skin-walker)」と呼ぶほど巧妙な免疫回避能力があると指摘しています。
“Skin-walker” はもともと ナバホ族の伝承に登場する邪悪な魔術師(yee naaldlooshii)の俗称で、「他者の皮をまとって姿を変える者」というニュアンスをもつ形容です。
このかじり取りによって、寄生虫の外面が“ヒト由来”の分子に覆われるため、本来ならすぐに攻撃されるはずの寄生虫が免疫に発見されにくくなるのではないかと考えられています。
ただし、赤痢アメーバが実際に何をどうやって奪うのか、そしてどのような遺伝子がかかわるのかについては、これまで詳細がはっきりしませんでした。
さらに、赤痢アメーバが示す“不均一な倍数性(アニュープロイディ)”やRNA干渉(RNAi)が、どれほどこの寄生虫の変身能力や免疫逃避に影響しているのかも大きな謎のままです。
そこで今回研究者たちは、顕微鏡を使って赤痢アメーバの偽装の過程を詳細に暴くとともに、遺伝子解析、RNA干渉の評価など多角的な手法で総合的に検証し、その免疫回避メカニズムを突き止めようと試みました。