“あっという間”の正体:自己成長が時間を縮める心理トリック

今回の研究では、大学生と社会人計約2,500人を対象に4件のアンケート調査が実施されました。
参加者は過去1年、大学のある学期、夏休みなど特定の期間を振り返り、それぞれの期間について以下の項目を回答しています。
①期間中の日々がどれくらいルーティン化(単調化)していたか。
②期間を通じてどの程度自己成長(自律性や有能感の向上)を感じたか。
③期間中に記憶に残る出来事がどれだけあったか。
④その期間に対する満足度はどのくらいか。
⑤その期間を振り返ったときに感じるノスタルジー(懐かしさ)の強さはどのくらいか。
そして全体として、その期間がどれほどあっという間に過ぎたと感じるか。
調査の結果、まず「ルーティン仮説」については限定的な支持しか得られませんでした。
4つの調査のうち2つでは、日々がルーティンだったと感じた人ほど時間が早く過ぎたと報告する傾向が見られましたが、他の調査ではその関連は認められなかったのです。
また、ルーティンで出来事が少ないほど記憶も少なくなるはずですが、出来事の少なさ自体は時間感覚の遅さに直結せず、場合によっては出来事が少ないほど時間が早く感じられるケースも見られました。
一方、「成長欠如仮説」(自己成長がない期間ほど時間が早く感じる)は明確に否定されました。
むしろ予想に反して、自己成長が充実していた期間のほうが「あっという間だった」と振り返る参加者が多かったのです。
この予想外のパターンを受けて、研究チームは時間知覚の仕組みについて改めて仮説を練り直すことになりました。
そこで後半の2つの調査では、期間に対する満足感とノスタルジーという感情面の要因に注目し、これらが自己成長と時間知覚の関係を説明しうるか検証しました。
分析の結果、期間への満足度が高い人、およびその期間を強くノスタルジックに感じている人ほど、時間がより速く過ぎたと感じる傾向が明らかになりました。
さらに統計モデルで満足感とノスタルジーの影響を考慮に入れると、自己成長と時間感覚との直接的な関連は消失します。
つまり、自己成長が時間の経過感に与える影響は、満足感とノスタルジーを高めることによる間接的なものだったと考えられるのです。
なお、満足感とノスタルジーでは影響力にやや差がみられ、満足感のほうがわずかに強く時間感覚に寄与していましたが、どちらの要因も有意な効果を持つことが確認されました。