マウスが“+30%”長生きした決定打はたった2錠

研究チームはマウス雌100匹・雄120匹規模(×4群で総計880匹)の大規模コホートを用意し、出生後6か月齢(人間に換算するとヒトの30歳前後の成人に相当)の時点からエサに薬剤を混ぜて投与し始めました。
投与群は(1) ラパマイシン単独、(2) トラメチニブ単独、(3) ラパマイシン+トラメチニブ併用の3条件で、さらに(4) 薬剤を入れない対照群と比較することで効果を検証しました。
マウスは加齢に伴う健康状態の変化についても経時的にモニターされ、寿命が尽きるまで長期の追跡が行われました。
この2種類の薬を組み合わせて投与することで、細胞内の2つの成長スイッチに同時にブレーキをかけ、老化現象を抑え込む狙いがあります。
実際、本研究ではこの「薬剤カクテル」の投与によってマウスの中央値寿命が約30%延び、さらに健康面の指標も軒並み改善することが確認されました。
ラパマイシン単独では中央値寿命が雌で約17%、雄で約17%延び、トラメチニブ単剤では雌で約7%、雄で約10%の寿命延長効果が見られました。
そして両者を併用したマウスでは、寿命延長効果がほぼ加算的(足し算)に増大し、対照群と比べて中央値寿命が約30%長くなったのです。
具体的にはメスで+約35%、オスで+約27%という劇的な延長幅で、老化研究の文脈では「異例」と言えるほど大きな効果が得られました。
さらに注目すべきは、単に寿命が伸びただけでなく高齢期の健康状態が大きく改善された点です。
併用治療を受けたマウスでは慢性的な炎症が全身の組織(脳・腎臓・脾臓・筋肉など)で顕著に抑制され、血中の炎症性サイトカイン(免疫シグナル物質)のレベルも低下していました。
また肝臓ではオス・メスとも腫瘍発生が遅れ、脾臓では雄のみでしたが有意な減少が認められました。
加えて、脳では高齢になると過剰になるグルコース取り込みが、併用群で抑えられました。
他にも高齢期の心機能低下が遅れるといった変化もみられました。
さらにラパマイシン単剤および併用群では体重が低めに保たれた、活動的に動き回る、といった全身の若々しさ維持につながる変化も観察されています。
要するにこの薬剤カクテルは、寿命と「健康寿命」を同時に押し上げたことになります。