メビウス症候群はどんな病気?
この稀な疾患は、1888年にドイツの神経学者パウル・メビウスによって初めて報告されました。
メビウス症候群の最も顕著な特徴は「顔が動かないこと」です。
もっと正確に言えば、顔の表情を作る筋肉や、目を左右に動かす筋肉が機能しないという症状です。
医学的には、外転神経(第6脳神経)と顔面神経(第7脳神経)の欠如や発達不全が主な原因とされており、これにより表情筋や眼球運動筋が麻痺状態に陥ります。

たとえば、メビウス症候群の乳児は泣いていても顔に表情が現れず、筋肉が緩むことで斜視やよだれが多いなどの特徴が見られます。
物を目で追うときには、視線を動かせないために首ごと動かして追視するといった行動が現れます。
また、吸う力や飲み込む力が弱く、授乳に困難を伴うケースも多く報告されています。
成長しても、表情が乏しいために他人から「感情がない」「無愛想」だと誤解されがちです。
しかし知的発達に遅れがあるわけではなく、感情は内面にしっかりと存在しています。
ただ、それを「顔」で伝えることができないだけなのです。
症状の程度は個人差があり、一部の患者では顎が小さい、舌が短い、聴力障害、手足の奇形(合指症や内反足など)も併発することがあります。
また、運動発達の遅れがみられることもありますが、多くは成長とともに改善します。
過去には自閉スペクトラム症(ASD)との関連が指摘されたこともありますが、現在では誤診の可能性が高いと考えられています。
これは表情が出ないことや発語の遅れが、対人関係の困難として誤認された結果だと推察されています。