メビウス症候群が起きる「原因」とは何なのか?
では、なぜこのような神経異常が起こるのでしょうか?
実は、メビウス症候群の正確な原因はいまだ解明されていません。
多くのケースは「散発的」、つまり家族にも病歴のない偶発的な発症であり、遺伝的な関連は少ないと考えられています。
一部の研究では、胎児期の脳幹への血流障害が原因である可能性が示唆されています。
脳の発達初期に必要な酸素や栄養が十分に届かなかったことで、神経の発達に支障が出たのではないかという仮説です。
また、妊娠中の特定の薬物や化学物質の曝露もリスク因子として指摘されています。
具体的には、アルコール、コカイン、ベンゾジアゼピン系薬剤、免疫抑制剤サリドマイド、そして片頭痛治療薬エルゴタミンなどが挙げられます。
遺伝子の変異もわずかに関連しており、PLXND1やREV3Lといった胎児期の脳の形成やDNA修復に関わる遺伝子の異常が一部の症例で確認されています。

治療法については、今のところ根本的な治療は存在しません。
しかし患者の症状に合わせた対症療法が多くの場面で効果を上げています。
たとえば、顔面の筋肉の動きを回復させるために、他の部位からの神経や筋肉の移植手術が行われることがあります。
これにより、まばたき、笑顔、咀嚼などの機能がある程度回復する場合もあります。
幼児期には、摂食障害に対応するために経管栄養チューブを使うこともあり、目が乾きやすいことに対しては点眼薬やサングラスでの保護が推奨されます。
さらに斜視を矯正する手術や言語療法、理学療法、義肢・装具の使用など、多分野にわたるリハビリや支援が患者の生活の質(QOL)を大きく改善しています。
また日本ではこの病気は「指定難病」に認定されており、医療費の助成を含めた公的支援を受けることが可能です。