量子の「超挙動」は一見何もないところからエネルギーを生み出せる
量子の「超挙動」は一見何もないところからエネルギーを生み出せる / Credit:clip studio . 川勝康弘
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量子の「超挙動」は一見何もないところからエネルギーを生み出せる (2/3)

2025.06.02 18:00:34 Monday

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量子の超挙動が無からエネルギーを作り出す

量子の超挙動が無からエネルギーを作り出す
量子の超挙動が無からエネルギーを作り出す / Credit:clip studio . 川勝康弘

研究チームは量子論でよく用いられる調和振動子(バネに繋がれた物体の量子的モデル)に着目し、理論計算を行いました。

調和振動子にはエネルギー固有状態が無数に存在しますが、その中からエネルギーがほぼゼロに近い状態だけをいくつも選び出し、それらを重ね合わせた特殊な量子状態を構成しました。

その結果、驚いたことに重ね合わせる状態の数を限界まで増やしていくと、最終的に“ちゃんとした”エネルギーを持つ波へ落ち着くことが計算でわかったのです。

研究論文の中で、著者たちはこの現象を「無からエネルギーを作り出す」状態と表現しています。

では、エネルギーが「無から湧く」とはどういうことでしょうか?

この量子状態を例えるならば、特殊な量子の波はまるで舞台の照明と言えます。

たとえばスポットライトが当たったところでは光が集まってまぶしいほど明るく(=エネルギーが高く)なるのに、ライトが当たらない客席は暗がりのまま(=エネルギーがほとんどゼロ)……という感じです。

粒子の波動関数(粒子の状態を記述する波のようなもの)が重ね合わせを増やすほど、高エネルギーが現れるエリアを少しずつ広げられる余地がある一方で、それ以外の領域では波同士が打ち消し合いほとんどエネルギーを持たないように作られています。

そして高エネルギー部分ではその広がった余地を利用することで、瞬間的に場違いな超高エネルギー粒子を生成できるわけです。

言い換えれば、穏やかな量子の波を巧みに足し合わせて、ある場所だけにエネルギーが「無から生まれる」ように見せているのです。

量子の超挙動は古典物理の外れ値とどう違うのか?

古典系で「外れ値」と呼ばれるものは、サイコロを振って 100 回中 90 回も6が出るような“めったに起きない統計的偏り”です。確率分布の端っこにたまたま引っかかっただけなので、どんなに驚く結果でも――あらかじめ決まっている範囲を超えることはありません。一方、量子の超挙動は「めったに起きない」点では似ていますが、本質は統計の振れ幅ではなく波どうしの干渉が生む“設計された錯覚”にあります。低エネルギーの波を綿密に重ね合わせると、全体のエネルギー帳尻は合わせたまま、ある場所だけが理論上の上限をすり抜けて“高エネルギースポットライト”のように輝きます。ここでは確率分布の外へ飛び出すのではなく、波の位相と強さをミリ単位でそろえた結果として、平均値の檻を局所的に“抜け穴”に変えてしまうのです。つまり古典的な外れ値は偶然の産物で必ず元のレンジにとどまりますが、量子の超挙動は干渉という道具でレンジそのものの隙間を作り出し、一瞬だけ“ありえない”値を実体化させる――そこが決定的な違いです。

別のたとえでは、水面のさざ波同士が重なって一瞬だけ大きな波しぶきを作る様子とも言えます。

たとえば海でも大きな波しぶきは一見すると突然エネルギーが生じたように見えますが、実際には周囲とのエネルギーのやり取りで成り立っています。

同様に、この量子状態では全体としてほとんどエネルギーを持たないはずの系に、局所的にエネルギーが集中しているのです。

(※全体ではエネルギー保存則をきちんと守っていますが、局所的な再配分を行うことでほとんどエネルギーを持たない系でも高エネルギー粒子出現が実現します。実際、その量子状態では調和振動子全体としてのエネルギーは有限で、きちんと収束することが確認されました。)

研究チームはこの状況を定量的にも確認しました。

エネルギーの計算方法を工夫し、粒子が特定の空間領域に存在すると仮定した場合の期待エネルギーを求めると、その値は確かにゼロではなく有限の大きさになります。

一方、量子状態を構成している個々の低エネルギー成分を足し合わせると、全体のエネルギーはほとんどゼロに打ち消しあってしまうことも計算で示されました。

つまり全体のエネルギーは僅かになり、理論上ほとんどゼロに近づいていくのに、空間の一部に限ればエネルギーが取り出せるという、一種のトリックが働いているわけです。

この現象を別の角度から見ると、エネルギーの高い領域では時間的な振る舞いにも特徴が現れていました。

量子の世界ではエネルギーが高いほど波動関数の時間変化(振動)が速くなりますが、まさにその領域の波動関数は非常に高い周波数で時間振動(超高速のゆらぎ)していたのです。

研究チームは、この「スーパーエネルギー」状態では時間方向においても時間についても同じ現象が起きるが、とても短い時間に限られており、エネルギー値と振動速度の関係がプランク定数を通じて一致することを確認しました。

これは理論の一貫性を示す興味深い結果で、エネルギーの超挙動を持つ状態は時間的にも異常な振る舞いを示すという、新たな知見と言えます。

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