余ったエネルギーは「砂」に貯めろ

では、砂を使ってどのように熱を蓄え、それを町の暖房に使うことができるのでしょうか?
その答えを得るため、研究者たちはまず、大量の砂を貯めておくための大きな「熱の貯金箱」を作ることにしました。
それが今回稼働を始めた、高さが約13メートル、直径が約15メートルという巨大な円柱形の貯蔵タンク(サイロ)です。
このサイロの中には約2,000トンもの砂がぎっしり詰め込まれており、その砂も新たに採掘したものではなく、暖炉メーカーから出る廃材(滑石)をリサイクルしたものでした。
次に研究者たちは、この砂の中に特殊な電気ヒーターを設置しました。
砂は電気を通しにくい素材のため、電気を流すと電気抵抗が生じ、その抵抗で大量の熱が発生します。
これは電気ストーブと同じ原理で、サイロの中の砂全体が最終的に約400〜500℃まで熱せられました。
この方法は非常に効率がよく、電力を熱に変えるのにほとんど無駄がありません。
砂が十分に熱を持つと、サイロの周囲に取り付けた断熱材のおかげで、その熱は簡単には外へ逃げません。
こうして、砂は何週間にもわたって高温のまま熱を蓄えることができます。
そして、この熱を必要な時に引き出す方法として研究者たちが考えたのが、砂の中に配管を通して空気を送り込み、その空気を熱交換器に通じて町の暖房用のお湯を温める、という仕組みでした。
こうして砂電池は、ポルナイネン町の地域暖房ネットワークの中心的な熱源となったのです。
具体的には、夏なら数週間、冬でも数日〜最大1週間程度、町全体の暖房エネルギーをこの砂電池ひとつでまかなうことが可能になりました。
また、充電と放熱の過程で熱が失われる割合も10〜15%程度と非常に少なく、熱を貯めておく効率も非常に高いことがわかりました。
その結果、これまで主力として使われていた化石燃料由来の重油ボイラーをほとんど使わなくて済むようになり、木質チップなどのバイオマス燃料も従来の約6割削減することに成功しています。
当然、燃料にかかるコストも大幅に削減され、町全体の暖房システムは経済的にもメリットが大きいものになりました。
この成果について、地域暖房会社Loviisan Lämpö社のCEO、ミッコ・パアヤネン氏は、「砂電池のおかげで排出量を大幅に削減できただけでなく、熱供給の安定性や信頼性も向上しました」と喜びの声を語っています。
こうして成功を収めた砂電池ですが、導入前から使われていたバイオマスボイラーも完全に廃止したわけではなく、需要が特に高まるピーク時のために念のため残してあります。
ただ実際には、このボイラーをほとんど使わなくても問題なく暖房を維持できることが確認されています。