宇宙観をひっくり返す新理論「時間が空間を生んだ」とは?

では具体的に、この理論はどのようにして検証可能なものになったのでしょうか?
この謎を解明するために、研究者たちはまず、「3次元の時間」という抽象的なアイデアを、実際に私たちが目にしている宇宙の現象や素粒子の性質と結びつける方法を探りました。
理論を組み立てる段階で、クレテチュカ准教授が注目したのは、「もし時間に3つの次元があるなら、それぞれの次元が異なる大きさやスケールの現象に関係しているはずだ」という考え方でした。
その結果、3つの時間軸(t₁, t₂, t₃)が、それぞれ私たちが観測する自然界の現象と驚くほどぴったり対応することが明らかになったのです。
第1の時間軸(t₁)は、私たちが普段感じている時間とは比べ物にならないほど微小な世界を支配しています。
具体的には原子内部で起こるような、1兆分の1のさらに1兆分の1秒(約10⁻²⁴秒)という極めて短いスケールを担当し、この時間軸こそが素粒子の質量を生み出し、量子世界の不思議な振る舞いをもたらすと考えられました。
第2の時間軸(t₂)は、量子世界と私たちが普段暮らしている日常世界との間をつなぐ役割を果たしています。
この中間的な軸は素粒子が「3つの世代」に分かれる理由や、弱い相互作用という特殊な力がなぜ左巻きという偏りを持っているかという謎を解き明かすカギとなっています。
そして第3の時間軸(t₃)は宇宙全体という最も大きなスケールを支配しており、銀河の形成や宇宙の膨張といった巨大な現象を司っています。
こうした対応関係が明らかになったことで、「3つの時間軸」が単なる数学的な仮説ではなく、現実の世界の特徴を非常にうまく説明できることがわかりました。
実際、この新しい理論は、長年物理学者たちが解けずに悩んできた素粒子の謎を次々と解明しはじめました。
例えば、「素粒子はなぜ3世代に分かれているのか?」という問いに対して、この理論は「3つの時間軸が存在するからこそ、素粒子も自然に3世代に分かれる」という明快な答えを与えています。
理論から導き出された質量比の予測は、第1世代、第2世代、第3世代が1 : 4.5 : 21という比率になり、現実の観測値と驚くほど一致しています。
さらに、既に発見されている素粒子の質量を、非常に精密なレベルで再現することにも成功しました。
例えばトップクォークという粒子の質量は、理論上173.21 ± 0.51 GeVと予測されていましたが、実際に実験で観測された値は173.2 ± 0.9 GeVという見事な一致を示しています。
また、電子の質量の計算結果も、実測値と高精度の精度で一致するなど、偶然とは思えないほどの正確さを持っているのです。
新理論の成功度合いを測る物差しの1つに既存の測定値と新理論の理論値がどれほど一致するかというものがありますが、その点において時間を3次元とする今回の理論は素晴らしい一致を見せていたのです。
それだけでなく、この理論は私たちがまだ見つけていない未知の粒子の存在も予測しています。
理論計算によれば、エネルギーが約2.3 TeVと約4.1 TeVの地点で新しい粒子が見つかる可能性があります。
この予測は、今後アップグレードされる大型粒子加速器HL-LHCや、計画されている超大型加速器FCC-hhで直接検証することが可能なものです。
さらに興味深いことに、この理論は重力波と光が全く同じ速さで進むわけではない、という微妙な予測までしています。
理論によれば、重力波は光よりもごくわずか遅れ、その速度差は光速の約1.5×10⁻¹³%(0.00000000000015%)程度とされました。
この違いは、次世代の高感度な重力波望遠鏡(LIGOの改良版や宇宙で観測を行うLISAなど)によって、実際に観測できる可能性があります。
また、この理論を使うと、宇宙の膨張を加速させる謎の力「ダークエネルギー」の振る舞いにも微妙な変化が起こると予測されます。
これについては、2027年以降に本格的に稼働する宇宙望遠鏡ユークリッドやヴェラ・C・ルービン天文台による観測で、近い将来検証が行われる予定となっています。
こうした数々の予測を打ち出したクレテチュカ理論ですが、果たしてこれらは本当に正しいことが証明されるのでしょうか?