時間も空間も粒子も全てを導出する「高次元の宝石」アンプリチューへドロンとは何か?
時間も空間も粒子も全てを導出する「高次元の宝石」アンプリチューへドロンとは何か? / Credit:Canva
quantum

時間も空間も粒子も導出する「高次元の宝石」アンプリチューへドロンとは何か? (2/3)

2025.06.24 18:30:35 Tuesday

前ページ数式はもういらない?『宝石型物理』が登場した理由

<

1

2

3

>

宇宙を支配する新理論、その名はアンプリチューヘドロン

宇宙を支配する新理論、その名はアンプリチューヘドロン
宇宙を支配する新理論、その名はアンプリチューヘドロン / 可視化されたアンプリチューヘドロンの高粒子数へ一般化した例。頂点が格子状につながり、内部が細かい三角面で埋め尽くされているのは「より多くの散乱経路をひとまとめにするほど面が増える」ことを示しています。/Credit:Positive Geometries and Canonical Forms

では、なぜこのアンプリチューヘドロンが「万物の理論」の鍵になるとまで期待されているのでしょうか。

その理由は、アンプリチューヘドロンが現代物理学の根本原理に対する大胆な再解釈を示唆しているからです。

現在の物理学には、大きく分けて二つの柱があります。

一つは素粒子などミクロな世界を記述する量子論(量子力学や量子場の理論)、もう一つは宇宙規模の重力を記述する一般相対性理論です。

残念ながら、この二つを一つの枠組みで統一的に説明する理論はまだ見つかっていません。

量子論では確率や不確定性が支配し、一方の一般相対論では時空の滑らかなゆがみとして重力を扱います。

このミクロとマクロのギャップを埋めるのが「万物の理論」の使命ですが、従来のアプローチでは両者を無理やり組み合わせようとして深刻な矛盾や「無限大」が噴出するという困難に直面してきました。

特にブラックホールのような極限状態では、量子効果と重力効果が同時に効いてくるため、現在の理論体系では破綻が起きてしまうのです。

アンプリチューヘドロンが注目されるのは、まさにこの問題へのアプローチが従来とは全く異なるからです。

アンプリチューヘドロンを使った理論では、空間と時間、それに因果関係の基本原理ですら「派生的なもの」とみなされる可能性があります。

通常、物理理論では「局所性(相互作用は時空上の一点で起こる)」「ユニタリティ(起こり得る全事象の確率の和は100%になる)」といった原理を当たり前の前提として組み込みます。

しかしアンプリチューヘドロンでは、そうした前提を初めから絶対のものとはせず、むしろこれらの原理を用いなくても計算が自然と正しく成立することが示されています。

空間や時間、そして粒子がそれらを移動するという通常の描像は、この宝石のような図形の中から結果として現れる「現象」に過ぎない可能性があるのです。

研究者たちによれば、アンプリチューヘドロンの枠組みでは局所性やユニタリティといった原理が絶対的ではなく、将来の理論構築においてより柔軟に扱える可能性が指摘されています。

この発想は革命的です。

なぜなら、量子論と重力理論を統合しようとすると必ず問題となっていたのが、まさに局所性やユニタリティといった前提だからです。

ブラックホールでは情報が消えるのか残るのか(ユニタリティの問題)、極小領域で重力はどこまで意味を持つのか(局所性の問題)など、これらの原理が絶対だと考える限り矛盾が生じてしまいます。

アンプリチューヘドロンは最初からそれらを固定せず、むしろそれ抜きで完結する理論を志向しています。

そのため、量子と重力を統一する糸口が見えるのではないかと期待されているのです。

実際、多くの研究者が「アンプリチューヘドロンのような幾何学的手法は、量子重力理論(量子論と重力の統合)を探求する新たな道を開く可能性がある」と指摘しています。

もっとも、現時点でアンプリチューヘドロン自体が重力を直接記述できているわけではありません。

アンプリチューヘドロンが初めに発見されたのは、「最大超対称を持つヤン・ミルズ理論」という理想化された理論においてでした。

この理論には重力は含まれておらず、現実の宇宙を記述する標準模型の粒子や実際の重力理論を直接扱えるかどうかについては、まだ検証と拡張が必要です。

しかし研究者たちは、重力を含めた形でこの手法を拡張できる可能性があると考えています。

重力を含む散乱過程も、アンプリチューヘドロンか、あるいはそれに近い幾何学的対象で記述できる可能性があります。

そのような対象はアンプリチューヘドロンに似ている一方で、より複雑で見つけるのが難しいかもしれないからです。

アンプリチューヘドロンの共同発見者であるトルンカ氏も、その将来性について期待を示しています。

同氏は「真に正しい万物の理論がどのようなものになるにせよ、アンプリチューヘドロンのような幾何学的手法が自然な記述方法として重要な役割を果たす可能性があります」と語っています。

散乱振幅の研究に携わるジェイコブ・バージェイリー氏も「究極的にはユニタリティや局所性といった従来の原理を根本から見直す必要があるかもしれません。アンプリチューヘドロン的アプローチは、量子重力理論を築くうえで有力な出発点になり得ます」と述べています。

つまり、アンプリチューヘドロンは万物の理論への道筋を示す「地図」のような役割を果たすかもしれないのです。

さらに興味深いのは、アンプリチューヘドロンが暗示する世界像の変化です。

研究者らは、空間と時間さえもこの幾何学的構造から派生する現象とみなすことで、宇宙の始まり(ビッグバン)や時間の流れといった根源的な謎に新たな光が当たる可能性を指摘しています。

ある研究者は「私たちが感じる時間の流れや変化というものが、実はアンプリチューヘドロンという構造の性質から生じる現象であり、この構造自体は時間を持たない存在なのかもしれません」と述べています。

もし本当に空間や時間が幻影に過ぎず、もっと根源的な幾何学的存在があるとすれば、それは物理学だけでなく哲学にも深く関わる問いかけとなるでしょう。

アンプリチューヘドロンの研究は、「私たちの現実とは何か?」という根本的な問題にまでつながっているのです。

次ページ万物の理論へ──アンプリチューヘドロンが描く未来図

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

量子論のニュースquantum news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!