逆進化を引き起こした「4つのアミノ酸」
この不思議な現象を解明するカギとなったのが「GAME8(ゲームエイト)」と呼ばれる酵素でした。
トマトなどの植物がアルカロイドを作る際、この酵素が重要なステップを担っているのです。
通常、トマトのGAME8酵素は25S型のアルカロイドを作りますが、ナスのGAME8では25R型になります。
この違いは、たった4つのアミノ酸の違いによって決まっていました。
チームは、ガラパゴスの野生トマトからさまざまな場所のサンプルを採取し、酵素の遺伝子配列と化学成分を分析。
その結果、ガラパゴス諸島の西部に位置する火山島に生えるトマトでは、GAME8酵素に古代型の変異が起きており、それが25R型の毒を再び生み出していたのです。
しかもこの変異は、島の位置や年齢とぴったり一致していました。
ガラパゴス諸島の東側に比べて、地質的に若く、乾燥し土壌も貧しい過酷な西部の島々でだけ、祖先型の毒が復活していたのです。
なぜそんなことが起きたのか?
チームは、こう推測します。
「古代型のアルカロイド(25R型)の方が、過酷な環境での防御力に優れていたのかもしれない」と。
つまり、ガラパゴス西側の過酷な島々に暮らすトマトたちは、生き残るためにあえて失われたはずの遺伝子を“再起動”したというのです。

さらなる実験では、この4つのアミノ酸を人工的に入れ替えるだけで、トマトの酵素がナス型の毒を作り出すようになることも確認されました。
逆にナスの酵素からそれを取り除けば、トマト型の毒に戻ることもできます。
わずか数個の分子スイッチで、進化を巻き戻す――。生命の柔軟さには、驚かされるばかりです。
この発見は、単なる植物の不思議な話では終わりません。
進化とは一方通行だという前提を見直すきっかけとなり、「逆進化」もまた自然な選択の一形態であることを示しています。
もしトマトで起きたなら、人間や他の生物でも、環境の変化次第で“過去の遺伝子”が目を覚ますことはあるのかもしれません。
生命は時に、過去に手を伸ばすことで未来を切り拓く――。
ガラパゴスの火山島で静かに進むトマトの逆進化は、そんな可能性を私たちに教えてくれているのです。
「進化が前に進むと誰が決めたんだぁ?」
「なるほど、それであなたは諦めてしまわれたのですね?私は諦めません。前に進むことができないのなら一度後ろに戻って違う道を進むだけです。」
言ってみたかっただけです。