「生命の境界線」再考——スクナ古細菌が教えること

今回の研究によって、生物とウイルスの境界線が、実は明確な一本の線ではなく、非常に曖昧であることが示されました。
これまで私たちは、生物は細胞を持ち、自力で栄養を作り出し、自己複製できる存在だと考えてきました。
逆に、ウイルスは細胞を持たず、自分では栄養もエネルギーも作れず、宿主の細胞に入り込んで乗っ取らなければ増殖できないため、「生物ではない」と考えられてきました。
ところが今回見つかったスクナアルカエウム・ミラビレは、細胞という生物らしい特徴を保ちながら、栄養を作り出す能力をほぼ完全に失い、宿主に完全に依存するという、まるでウイルスのような生活をしているのです。
これは生命の定義を考える上で非常に大きな発見です。
研究者たちは、この微生物がどうしてこんなにも不思議な性質を持つようになったのか、その進化の謎にも注目しています。
一つの可能性として考えられているのは、もともと自力で栄養を作れる普通の生物だった祖先が、長い進化の歴史の中で宿主との関係に適応していった結果、どんどん余計な遺伝子を失い、最終的に自力では何もできない極端にシンプルな生物へと変わったという説です。
こうした進化は、生物が他の生物と共に暮らす中で起きる、いわば「進化のコストカット」です。
必要なものだけを残し、余分なものを捨て去って効率化を極めていった結果、ウイルスのように宿主に全面的に頼る存在になってしまった可能性があります。
一方で、逆の視点から見ると、スクナアルカエウムのような微生物は、原始的な生命の姿を再現している可能性もあります。
地球上で生命が誕生した初期の頃、生き物は非常に単純な構造で、ウイルスに近いような性質を持っていたかもしれない、という仮説もあるのです。
もしこれが正しければ、スクナアルカエウムはまるでタイムカプセルのように、太古の生命の姿を私たちに見せているのかもしれません。
また、スクナアルカエウムの発見は、生命の進化の可能性がいかに多様であるかも示しています。
生命は単純なものから複雑なものへと一直線に進化するだけでなく、逆に単純化する方向へも進化します。
さらに、生命同士が融合したり、分離したりといった複雑な変化も知られています。
例えば私たちの体の中にあるミトコンドリアという細胞内器官は、もともと独立した細菌が別の生物に取り込まれて細胞の一部となったものです。
同じように海のプランクトンの中にも、シアノバクテリアが取り込まれて新しい細胞内器官に進化した例があります。
こうした生命同士の融合や共生は、進化の歴史の中で何度も起こってきました。
スクナアルカエウムも、今は宿主に寄生しているだけですが、将来的に宿主に何らかのメリットを与える共生関係へと進化する可能性もあります。
今回の発見が特に科学者たちの注目を集めるのは、スクナアルカエウムがこれまでの生物の分類体系にまったく当てはまらない、新しい系統に属していることが分かったからです。
研究チームはこの新たなグループを「スクナクレード(Sukuna-clade)」と名付け、これは新しい門やそれ以上の大きな分類になる可能性があると指摘しています。
このことは、地球上にはまだ私たちがまったく知らない未知の生命が多数存在し、私たちがこれまで考えていた「生命の枠組み」を根本から書き換えるような可能性を秘めていることを意味します。
スクナアルカエウムは「生命の最小限界」を示す存在として、生命科学の根本的な問いをもう一度考え直すきっかけを与えてくれました。
―有用物質を作る能力がほとんど見当たらず、宿主への貢献はない―
―最終的に自力では何もできない極端にシンプルな生物へと変わった―
うん、なんかこういう人いるよね🤣