ロボットのドラマーが徐々に人間のような演奏技術を獲得していった
ロボットのドラマーが徐々に人間のような演奏技術を獲得していった / Credit:Robot Drummer: Learning Rhythmic Skills for Humanoid Drumming
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ロボットのドラマーが徐々に人間のような演奏技術を獲得していった (3/3)

2025.08.11 17:00:53 Monday

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なぜロボットは人間のように演奏し始めたのか?

なぜロボットは人間のように演奏し始めたのか?
なぜロボットは人間のように演奏し始めたのか? / Credit:川勝康弘

今回の研究は、AIロボット工学によって、人型ロボットが自分の力で創造的なスキルを身につけられることを示した点で、大きな意義があります。

特にドラム演奏のように、一瞬ごとのタイミングが正確に求められる表現的な作業を、ロボットが自律的にマスターしたことは注目に値します。

これまでの産業用ロボットやエンタメ向けロボットの多くは、人間があらかじめ動きをプログラムし、それをただ再生するものでした。

しかし今回のロボットドラマーは、演奏の目標だけを与えられた状態で、自分自身で繰り返し練習を重ね、曲のリズム構造や複雑さに合わせて体の動きを柔軟に調整することができるようになりました。

これは、将来的にロボットがバンドメンバーの一人として、人間と一緒にステージで生演奏を披露する未来を想像させる成果です。

研究チームの一人は、「学んだ技能を実際のロボットに移すのが次のステップ」と語っており、現在はシミュレーションで身につけた演奏スキルを、実際の人型ロボットに移し替える準備が進んでいます。

もし本物のドラムセットを叩けるようになれば、ライブで人間とロボットが共演する姿が近い将来見られるかもしれません。

【コラム】なぜロボットドラマーは人間のような動きを自然と獲得したのか?

人間のドラマーが演奏中に見せる腕の交差やスティックの持ち替えは、長年の経験や身体感覚の積み重ねから生まれる「工夫」に見えます。しかし今回の研究で登場したロボットドラマーは、それらを誰からも教わらずに自然と身につけました。この背景には、単なる模倣ではなく、「次の一打をどう効率よく叩くか」を常に考える仕組みが深く関わっています。ロボットは曲全体を通じて、限られた時間の中で遠く離れたドラムやシンバルに素早く手を伸ばす必要があります。そのため、今の一打をどう打つかが、数秒先の動作にまで影響します。研究では、未来の打点情報と密な報酬設計を組み合わせることで、ロボットが「次の動作を見越した計画」を立てられるようになりました。この未来志向の動きは、効率的に目的地へ向かうための経路探索の結果として生まれ、人間が自然に行う段取りと驚くほど似通っていたのです。例えば、右手で叩くのが基本のスネアも、その直後に右側のシンバルを叩く必要があれば、あえて左手で処理して右手を温存します。こうした選択は、事前にプログラムされた振る舞いではなく、演奏全体の流れを最適化するためにロボット自身が編み出した戦略です。言い換えれば、ロボットは楽譜を“読む”だけでなく、演奏中の制約と先の展開を同時に考えるようになったのです。このようにして生まれた「人間らしい動き」は、偶然ではなく、時間的文脈と空間的計画を結びつける学習プロセスの必然といえます。そしてこのアプローチは、単なる演奏スキルにとどまらず、将来的には他の複雑な協調作業や創造的動作にも応用できる可能性を秘めています。

さらに、この技術は音楽以外の分野にも応用が期待されています。

たとえば、リズムに合わせて正確に動く能力は、スポーツやダンス、リハビリテーション、または工場のライン作業など、タイミングが重要な多くの場面で役立つ可能性があります。

研究チームは今後、ロボットに即興演奏やスタイルの切り替えといった、固定された譜面を超える創造的な力を学ばせることも計画しています。

つまり、その場その場の音や仲間の演奏に合わせてリズムを変える、「音楽のノリを感じて動く力」をロボットに身につけさせたいというのです。

また、論文では演奏精度に影響する要因についても詳しく分析されています。

特に「使用するドラムの数(空間的な複雑さ)」や「打点の時間間隔の不規則さ(nPVI)」が大きい曲では、ロボットの成績(F1スコア)がやや低くなることが確認されました。

これは、叩く場所やタイミングの切り替えが激しいほど難しくなるためです。

一方で、テンポの速さやドラムの使い分けの多さ(エントロピー)は、それほど成績に影響しないこともわかりました。

こうした知見は、今後さらに賢く、柔軟に演奏できるロボットを開発していくうえで、貴重なヒントとなります。

人型ロボットが自分の力でドラム演奏を学び、しかも人間のような演奏の工夫まで身につけたという事実は、かつては夢物語のように思われていました。

しかし今、AIの進歩によってその夢は現実になりつつあります。

近い未来、ステージの上で、情熱的なビートを叩き出すロボットを観客が拍手で迎える――そんな光景が当たり前になる日が訪れるかもしれません。

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ロボットのドラマーが徐々に人間のような演奏技術を獲得していった (3/3)のコメント

ゲスト

下手とはいえドラマーの一人としては人間が叩かないことの利点は人間には絶対にできない演奏を簡単に実現できることだと思うので、人間と同じように叩かれても面白くないです。
ひと目見た瞬間に「あっ、これは無理だわ」ってなるようなことをしてほしいですね。
そういう意味ではロボットに4本とか腕つけて、それで演奏してもらうとかの方が個人的には楽しいなって思います。

    ゲスト

    素人演奏家としての直感ですが、ロボットに4本とか腕つけて演奏させると、生産物としては心底つまらない曲しか出てこないと思います。何故なら不可能や困難を乗り越えるひらめきが名曲や名演奏の創造性に直結しているように思えるからです。

    昔、Allan Holdsworth というギター弾きがいまして、彼は「サックスやピアノ等のフレーズを再現したい。ギターで!」という変態でした。Road Games というミニアルバムでは、音を聴いてからジャケット裏に書かれていた There is no synthesizer or keyboards on this record.という文言で衝撃を受けます。採譜しても毎小節ごとにどうやって弾いているのか誰も想像ができないフレーズのオンパレード。来日してステージで弾いてるのを見て、こんな事やっていたのかと全員が口あんぐり。そんな人でした。YouTube で探せばあります。

    そんな彼がある日、SynthAxe というギターの形をしたシンセサイザーコントローラーを手に入れます。ギターの枠を超えてギターでは不可能なフレーズを弾けるようになります。しかしそれが本当につまらなくて。嘘のようにきらめく魔法が消え去って自分には単なる平坦な音の洪水にしか聴こえなくなりました。それキーボードで弾けばいいじゃないの。むしろキーボードで弾いたフレーズのほうが遥かに創造的。結局紆余曲折あり彼も晩年にはSynthAxeを手放して普通のギターに戻りました。

    新製品や新技術が大好きな私ですが、楽器というものが、毎年新しい製品が登場しても基本的には何世紀も前に基本的なカタチが完成したまま超保守的であり続けるのには、理由があるのだと思えてなりません。

ゲスト

物理エンジンが働く?シミュ空間での学習→現実のロボがそれを利用という学習プロセス自体が良いですね

ゲスト

正確無比って点で結局は打ち込みと同じなんじゃないかな。リズム隊にはタメとか基本的に必要無いし。

スカイネット

AIとロボットによって職を失うリストにドラマーも追加されるということですね

ゲスト

どうせなら人間には不可能なブラストビートを叩いててほしい

ゲスト

前ノリ、後ノリ、ダメ、ハシリなどは曲のイメージ全体をリズム隊が背負う重要なテクなので、そういうMIDIやXMLで書けない人間ならではの再現ができると恐怖だよね。でもそれには演奏中のメンバー同士の阿吽の呼吸やライブならオーディエンスのヒート度や没入度合いなんかも読み取ってデータ化し分析しないとだから、人と同じように叩くにはまだまだ先かな。しかし腕は二本でいいけど関節数や可動角度は折角なら人間よりは増やしてあげたら良かったのにねー

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