認知機能の低さとネット上での政治的活発さ

研究チームは、8つの国の人々を対象にして、ネット上でどのような人が政治的な発言をしているのかを詳しく調べました。
調査を行った国は、アメリカ、中国、シンガポール、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ、ベトナムです。
今回の調査で特に調べたかったのは、3つのポイントです。
1つ目は、「ダークな性格(サイコパシーやナルシシズム)が強い人ほど、ネット上で政治に熱心になるのか?」
2つ目は、「周囲の話題から取り残されることを強く不安に感じる人(FoMO)が、ネット上の政治議論に参加しやすいのか?」
3つ目は、「冷静に考え、情報を判断する力(認知能力)が高い人は、ネットの政治参加に消極的になるのか?」
です。
これを調べるために、研究チームは各国の18歳以上の男女合わせて約8,000人を対象に、大規模なアンケート調査を行いました。
調査では、まず参加者の性格タイプを詳しく調べました。
特に注目したのは、「サイコパシー」「ナルシシズム」「FoMO(取り残され不安)」という性格傾向です。
「サイコパシー」は、自分勝手で衝動的な性格で、他人への思いやりや配慮が少ない傾向を指します。
「ナルシシズム」は、自分を特別だと考え、他人から注目されたいという気持ちが非常に強い性格のことです。
「FoMO(取り残され不安)」とは、「みんなが話題にしていることを自分だけが知らないのが不安で、仲間外れを恐れる」心理状態のことです。
次に、「認知能力」について調べました。
「認知能力」とは、情報をよく考えて判断したり、問題を冷静に解いたりする力のことです。
たとえば、ニュースやSNSで見た情報が本当に正しいかを、落ち着いて判断できる力と考えると良いでしょう。
そして、アンケートでは、それぞれの参加者に「SNS上で過去1年間にどのくらい政治的な投稿をしたか」を答えてもらいました。
例えば、政治に関するニュースや意見を投稿したり、誰かの政治的な意見にコメントしたり、シェアしたりといった行動をどのくらいしたかを尋ねました。
その結果、サイコパシーの傾向が強い人ほど、8か国すべてでオンライン政治活動が活発になることが明らかになりました。
つまり、自分勝手で衝動的な行動をとる人は、SNS上で政治の話に特に積極的に参加しやすかったのです。
また、FoMO(取り残され不安)が強い人も、オンラインでの政治参加が多くなる傾向が全ての国で共通して見られました。
周囲が政治的な話題をしている時に、自分だけ参加しないのは不安だという気持ちから、積極的に発言や投稿をしていた可能性があります。
また8カ国のうちインドネシアを除く7カ国で認知能力の低いほどオンライン政治参加の頻度は高い傾向にありました。
(※インドネシアでも認知能力の高さとオンライン政治参加の頻度は相関係数がマイナスになりましたが、統計的な有意性はないと判断されました)
これは認知能力が高い人が情報を冷静に分析して、「すぐに投稿してしまうのは良くないかもしれない」と慎重に考えてしまうためだと考えられます。
さらに、研究チームはこれらの性格や認知能力の組み合わせが、政治参加にどのように影響するかも調べました。
すると、サイコパシー傾向が高く、しかも認知能力が低い人が複数の国で最もオンライン政治活動が特に活発になる傾向があるとわかりました。
これは、衝動的な性格(アクセル)が強く働く一方で、それを止めるための冷静な判断力(ブレーキ)が弱いため、SNS上で積極的に発言を繰り返すようになるのではないかと推測されます。
一方で、国による違いも発見されています。
アメリカ、フィリピン、タイの3か国では、ナルシシズム(注目されたい気持ち)が強い人ほどオンライン政治活動が活発になりましたが、中国やシンガポールなど他の国では、このような傾向は見られませんでした。
これは文化の違いによって、「自己主張をすることが良いことかどうか」という社会的な価値観が違うためだと考えられます。
加えて興味深いことに中国だけは逆で、サイコパシーが高い人ほど、認知能力が高い層でむしろ政治的発言が増える傾向が見えました。
つまり中国では、ブレーキが強い人でも、アクセルが入ると発言が伸びやすい形です。
これは中国特有の文化や政治的な環境が影響している可能性があり、興味深い結果となりました。
一方、アメリカやシンガポール、フィリピンでは、サイコパシーと発言の結びつきは認知能力が高い層では弱まり、はっきりとは言えない程度になります。
マレーシアも、認知能力が低い層ほどこの結びつきが強く表れました。
要するに、同じ「アクセル×ブレーキ」の組み合わせでも、国ごとに“効き方”が違うのです。
研究者たちは組み合わせによって結果が異なる背景には文化や制度、オンライン環境などの国ごとの差が関わる可能性があります。