なぜ空中で排泄するのか?
では、なぜ彼らはわざわざエネルギーを使って飛びながら排泄するのでしょうか。
チームはその理由をいくつか挙げています。
1つ目は病原体との接触を避けるためです。
鳥の糞にはさまざまな病原菌やウイルスが含まれており、水面で排泄すると自分の身体や排泄腔が汚染されるリスクがあります。
飛行中に排泄すれば、風で拡散され、自身へのリスクを最小化できます。
2つ目は捕食者の存在です。
サメやアザラシなどは糞の匂いや痕跡に反応する可能性があります。
もし海面で排泄すれば、それが捕食者を呼び寄せる危険信号になりかねません。
飛行中であれば、糞はすぐに海に散らばり、痕跡を残さずに済みます。
3つ目は排泄姿勢の問題です。
飛行中は体勢が安定して腹圧をかけやすい一方、海面に浮かんだ姿勢では排泄に不利かもしれません。
実際、地上では座った姿勢で排泄する鳥も多いことから、海面浮遊中は姿勢的に適していない可能性があります。
この排泄行動には、生態系レベルでも大きな意味があります。
研究によれば、オオミズナギドリは1時間に体重の約5%に相当する30gもの糞を排出していると推定されます。
これは陸上で観察されていた数値よりもはるかに多く、飛行中に体重を減らすことで飛行効率を高めている可能性も示唆されます。
また、この大量の糞は海に栄養を供給します。
オオミズナギドリのような海鳥は世界に数億羽存在しており、群れで採餌する場所では糞によって局所的に栄養塩が増えると考えられます。
これはプランクトンや魚類の生産性を支える仕組みの一部になるかもしれません。
さらに、公衆衛生上の観点も重要です。
近年、鳥インフルエンザが海鳥の間で広がっており、糞を介した感染が大きな要因とされています。
異なる繁殖地から集まる海鳥が外洋で同じ餌場を利用する際、飛行中にばらまかれる糞が感染拡大を引き起こす可能性があるのです。
今回の発見は、海洋における病原体伝播の理解にもつながる重要な手がかりといえます。