フェイクニュースに強くなる「認知ワクチン」が開発された
フェイクニュースに強くなる「認知ワクチン」が開発された / Credit:川勝康弘 . Photoshop
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フェイクニュースに強くなる「認知ワクチン」が開発された

2025.08.27 18:00:32 Wednesday

イギリスのケント大学(University of Kent)を中心とする研究チームは、フェイクニュースや陰謀論などに対抗するための「心のワクチン(認知ワクチン)」を開発したと発表。

実験では、「認知ワクチン」として短いメッセージを読むだけで、自分の考えに過信せずに多角的な視点を持てるようになり、その結果としてフェイクニュースや陰謀論にだまされにくくなれることが明らかになったのです。

なぜ、短い文章を読むだけで、フェイクに対する抵抗力が高まるのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年8月20日に『Journal of Experimental Social Psychology』にて発表されました。

Norm-enhanced prebunking for actively open-minded thinking indirectly improves misinformation discernment and reduces conspiracy beliefs https://doi.org/10.1016/j.jesp.2025.104818

なぜ人はデマや陰謀論を信じてしまうのか?

私たちはインターネットやSNSを通じて、毎日膨大な情報に触れています。

しかしその情報の中には、意図的に作られた嘘やデマ、いわゆる「フェイクニュース」も数多く紛れ込んでいます。

こうした偽情報(ミスインフォメーション)は、社会に混乱をもたらす深刻な問題です。

たとえば、最近よく話題になった陰謀論の一つに、「5G電波塔は人間に害を与える」という根拠のない噂があります。

このデマを信じた人々が実際に5G基地局に放火をしてしまうという事件さえ起きています。

また、新型コロナウイルスのワクチンについても、「接種すると危険だ」といった誤った情報が広まり、ワクチン接種を避ける人が増えるという社会問題にもなりました。

こうしたフェイクニュースや陰謀論は、ただ単に「情報の嘘」だけが原因ではありません。

実は、人間の心理的な「考え方のクセ(認知バイアス)」も深く関わっています。

私たちの頭は、知らず知らずのうちに自分に都合よく情報を集めたり、物事を偏って解釈したりしてしまいます。

あえて言うなら、頭の中に「偏った眼鏡」をかけてしまっているようなものです。

この「偏った眼鏡」の代表的な例が、「確証バイアス」と呼ばれるものです。

確証バイアスとは、自分の意見を支持する情報ばかりを探し、反対の意見や都合の悪い情報を無視してしまう傾向のことを指します。

また、私たちはしばしば自分が何かを理解していると思い込みますが、実際にはよく理解できていないこともあります。

これを「理解の錯覚」と言います。

このような「考え方のクセ」が強い人ほど、フェイクニュースや陰謀論に簡単にだまされやすくなることが分かっています。

では、どうしたらこうしたクセを修正できるのでしょうか?

最近、心理学の研究者が注目しているのが、「積極的開放思考(Actively Open-minded Thinking, AOT)」という考え方です。

積極的開放思考(AOT)とは、自分の考えに絶対的な自信を持たず、むしろ「自分は間違っているかもしれない」と謙虚になって、他の意見や新たな証拠にも積極的に目を向けようとする態度のことを指します。

これまでの研究によると、このAOTのスコア(AOTのレベルを測った数値)が高い人ほど、偽情報に騙されにくいことが分かっています。

逆に、AOTスコアが低い人ほど陰謀論を簡単に信じてしまう傾向も報告されています。

そこで今回の研究チームは、AOTを高めることができれば、結果としてフェイクニュースや陰謀論に騙されにくくなるのではないかと考えました。

つまり、ニュースや情報の真偽を一つずつ検証していくのではなく、私たちの「考え方そのもの」を鍛えて、フェイクに騙されにくい頭を作ろうという試みです。

こうした考え方のクセを修正する試みは「認知ワクチン」とも呼ばれていて、医学で病気の予防接種を受けるように、事前に心の抵抗力をつける方法として期待されています。

今回の研究は、この新しい心理学的なアプローチが本当に効果的かどうかを調べることを目的としています。

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