認知ワクチンはフェイクニュースに耐性を与える

今回の研究チームは、認知ワクチンが本当に効果があるのかを確かめるため、Study 1 と Study 2 の2つが行われ、それぞれインターネットを通じて参加者を募集しました。
参加者は無作為に2つのグループに分けられ、片方のグループは「認知ワクチン」を受け取るグループで、もう一方はワクチンを受け取らない対照グループです。
(※ただしstudy1のワクチンを受け取らないグループは何もしない、study2のワクチンを受け取らないグループは簡単な作業をするという違いがありました。)
与えられる「認知ワクチン」には、自分の考え方や情報の見方を注意深くするための、人が陥りやすい次のような5つの考え方の落とし穴を警告したり避けるようにする内容が含まれています。
ここでいう5つの落とし穴とは
- 自分の考えに自信を持ちすぎる(過信)。
- 他の可能性を考えない(視野の狭さ)。
- 理解していないことに気づかず、「分かったつもり」になる。
- 自分に都合のよい情報ばかりを集める。
- 不利な情報さえも、自分に都合よく解釈する。
というものです。
たとえば「80%の人が『自分の意見を変える前には、賛成・反対の両方の意見をもっとしっかり確認したほうがいい』と答えた」や「ネットには人の思い込みを利用して情報を操ろうとする人がいる」などです。
さらに、これらの落とし穴に気をつけることで、「すべての情報を疑う必要はないけれど、どの情報を誰から信じるかを見極めることが重要だ」と強調されました。
そして最後は「自分が考えたことを何でも鵜呑みにしないように」とアドバイスして締めくくられ「認知ワクチン」の摂取が完了します。
一方で、ワクチンを受け取らない対照グループは、こうした特別なメッセージを受けずに調査を行いました。
このような実験を通じて、「認知ワクチン」によって本当に人々の考え方が変わるのかを調べました。
実験結果は、研究者たちの予想を裏付けるものでした。
ワクチンのメッセージを読んだグループでは、直後に行った調査で、他人の意見にも柔軟に耳を傾けようとする「積極的開放思考(AOT)」というスコアが明らかに上昇しました。
これはつまり、参加者たちが「自分の意見が本当に正しいのか、もう少し冷静に考えてみよう」と考えるようになったことを意味しています。
さらに、情報の見分け方についても良い結果が出ました。
具体的には、Study 2では偽物と本物のニュースを見分ける力が直接的に向上しました。
Study 1でもAOTが上がることで間接的にニュースを見分ける力が高まりました。
陰謀論を信じる度合いについても、ワクチンを受け取ったグループは低くなりました。
例えば、「政府が極秘の陰謀を進めている」という主張を信じる人が少なくなったのです。
Study 1ではこの効果が直接的に表れ、Study 2ではAOTが上がった結果として間接的に表れました。
SNSなどで情報を拡散したいかどうかについての意識も変化しました。
Study 1では、偽ニュースをSNSで「拡散したい」という意図が減りました。
別の分析では、本当のニュースをシェアしたい気持ちさえも少し減ったという結果がありました。
(※この違いはStudy 2で使われた「無関係な課題」が、単に何もしないstudy1の場合よりも参加者の集中力や意識を一定に保つ役割を果たした可能性があります。このため、ワクチン文の効果がStudy 2の方でよりはっきりと現れたのかもしれません。)
これは、情報を広める前に「ちょっと待って、本当に正しい情報かな?」と慎重に考える姿勢が強まったためだと考えられます。
また、CRT(認知反射テスト)という、よく考えれば簡単に解けるクイズのスコアもわずかに上がりましたが、実際に結果(フェイクを見抜く力や陰謀論を信じにくくなること)と一貫して結びついていたのはAOTの変化だけでした。
つまり、単に頭を回転させて考えるだけでなく、「もしかすると自分は間違っているかもしれない」という謙虚な態度が重要で、これこそがフェイク情報に強くなるための鍵なのだと分かったのです。