ド派手な装甲は防御目的か、それとも外見アピールか?
スピコメルスの化石が示すのは、アンキロサウルス類の防御システムが従来考えられていたよりもはるかに早く進化していた可能性です。
通常、動物の体にある誇張された構造――たとえばクジャクの派手な羽やシカの大きな角――は、性的選択、つまり繁殖相手をめぐる競争やアピールのために進化したと考えられています。
チームは、スピコメルスの華やかな装甲も同じように、単なる防御ではなく、仲間内での誇示や求愛行動に使われたのではないかと推測しています。
ただし、その装甲を維持するのは大きなエネルギーコストがかかるはずです。
しかも、肋骨や体側に融合したトゲは筋肉の付着位置を制限してしまうため、運動能力を犠牲にしていた可能性もあります。
研究者たちは「この恐竜が実際にどうやって動いていたのか、まだほとんど分かっていない」と述べています。
発見されている化石の部位画像がこちら。
さらに興味深いのは尾の構造です。
先端部分は未発見ですが、残された骨の形から、棍棒のような武器を持っていたと考えられています。
これまで尾の棍棒は白亜紀後期のアンキロサウルスに特有の特徴とされてきましたが、スピコメルスの存在はその常識に挑戦し、「武器化した尾」がもっと早い段階から登場していた可能性を示唆しています。
また、腰を守る「仙骨シールド」と呼ばれる骨の装甲も確認されており、アンキロサウルス類の代表的な特徴がジュラ紀の時点ですでに備わっていたことが分かりました。
これは、恐竜の進化のスピードや適応戦略を理解する上で重要な発見です。
チームは今後もモロッコの中期ジュラ紀の地層を調査し、この地域の恐竜生態系の解明を進めていく予定です。