時間の秩序が目で見える目で見る「時間結晶」

では、今回の研究チームが実際に行った「目で見える時間結晶」を作り出す方法を、順を追ってわかりやすく見ていきましょう。
時間結晶を人間が直接見える大きさにするには、肉眼で見える規模の材料を使う必要があります。
そこでチームは、まず液晶を使った小さな実験用のセル(薄い箱のような容器)を作りました。
液晶はスマートフォンやテレビのディスプレイに使われる身近な材料で、細長い分子が一定方向に並ぶことで知られています。
このセルの上下にあるガラス板の内側には、光を当てると向きが変化する性質をもつ特殊な色素(染料)が薄く塗ってあります。
この液晶セルに、一定の強さをもつ青い光(光の波の向きをそろえた偏光)を当てると、不思議なことが起こります。
まず、この青い光を浴びたガラス板表面の染料分子が光に反応して向きを変え始めます。
その染料分子が向きを変えると、近くにある液晶分子も、その染料の新しい向きに合わせて動き出します。
このとき、液晶分子は一斉に同じ向きにそろうのではなく、染料の向きに引っ張られるように少しずつねじれたり、ゆがんだりしながら並んでいきます。
すると液晶の内部には、この「ねじれ」や「ゆがみ」が繰り返し起こることで、小さな縞(しま)模様のような構造が自然に生まれてきます。
この小さな縞模様は、液晶分子が作り出す「トポロジカル・ソリトン」と呼ばれる安定した粒(ドメイン)が規則的に並んだもので、安定性が高く簡単には壊れません。
さらに興味深いのは、この縞模様が静止したままではなく、一定のリズムで明るくなったり暗くなったりと、まるで「液晶の中に時間の波が生まれた」かのように動き続ける点です。
つまり、外からは一定の光が当てられているだけで周期的な合図は与えられていないにもかかわらず、液晶自体が自分で作り出したリズムで振動し始めるのです。
この現象こそ、今回の研究で実現を目指した本物の「時間結晶」の特徴的なふるまいなのです。
研究チームは、この不思議な縞模様をより詳しく調べるために、偏光顕微鏡という特殊な顕微鏡で液晶セル内部の様子を動画撮影しました。
その結果、一定の条件で約4.6秒ごとに縞模様が変化することが確認されました。
さらに、この時間結晶は1平方ミリメートル以上という、人間の目でも確認できるほどの大きさで実現できました。
次に、研究チームはこの時間結晶の安定性をテストするため、さまざまな実験を行いました。
まず温度を変えてみたところ、縞模様のリズムは維持されながらも、そのリズムが温度によってゆっくりになったり速くなったりと、連続的に変化しました。
また、青い光の強さを変えても、一定の範囲内ならばリズムが崩れないことがわかりました。
さらに、光の強さにわずかな乱れ(ノイズ)を加えても、この時間結晶の周期的な秩序は崩れませんでした。
一時的に液晶内部の模様が少し乱れてしまうことはありましたが、時間が経つと自然に元の規則正しい模様へと自己修復されました。
これらの観察結果から、周期的な合図(例えば、一定周期での外部刺激)がなくても、この液晶の中に自律的で安定した「時間の秩序」が自然に現れていることが明確に示されました。
また、縞模様が外部の周期的刺激によらずに自発的に発生し、一定の基準を満たしたことから、これまで理論的に考えられていた「真の時間結晶」の有力な実験的証拠となったのです。