肝臓の異変を調べる新手法。秘密は「呼気」にあり!?
私たちの体では、細胞が壊れる「脂質の酸化」が起きることがあります。
特に鉄(Fe)の作用で細胞膜の脂質が激しく酸化されると、「フェロトーシス(ferroptosis)」と呼ばれる特殊な細胞死が生じます。
このフェロトーシスは、肝臓病やがん、心臓・腎臓の病気など、多くの病気に関わる重要な現象です。
肝臓は鉄が多く蓄積する臓器のため、フェロトーシスが起きやすいのです。
しかし、こうした細胞の変化を生きた人間の体の中で直接調べるには、肝臓の組織を採取しなければならず、より負担の少ない検査方法が求められてきました。
そこで注目されたのが呼気(息)です。
呼気には体内代謝のヒントとなる揮発性有機化合物(VOCs)がたくさん含まれており、 特に脂質が酸化されると「揮発性酸化脂質(VOLs)」という分子が生じて、最終的に息として体外に出てくることが知られていました。
「もしこのVOLsを息から正確に検出できれば、肝臓の異変を非侵襲的にリアルタイムでモニターできるかもしれない」
このシンプルな発想が、今回の研究の出発点でした。
そのために研究チームは、「oxidative volatolomics」という最新の質量分析技術を独自で開発。
これを用いて、まず培養細胞でフェロトーシスを進行させ、どんな分子が放出されるかをくわしく調べました。
また、マウスを使った急性肝不全や慢性肝臓病のモデルでも、 肝臓や呼気中の分子を同じように解析しました。
最終的には、健康な人、MASLD(代謝異常関連脂肪性肝疾患)患者、肝硬変患者の呼気を比較し、人でも同じ現象が起きているかを調べました。