呼気に現れる「鉄の匂い」から肝臓の異変を知ることに成功
実験の結果、研究グループは、培養細胞を通じて、「1-octen-3-ol」「2-pentylfuran」という2つの分子がフェロトーシスの進行とともに有意に増えることを明らかにしました。
この「1-octen-3-ol」と「2-pentylfuran」は、血が出たときや鉄に触れたときに感じる“鉄の匂い”の一因とされ、「鉄の匂いの分子」と呼ばれています。
そして、マウスを使ったモデルの肝臓や呼気でもこれらの分子が増え、 人間の呼気サンプルでも、肝臓病患者ほど「鉄の匂いの分子」が多いことがはっきり示されました。
特に「2-pentylfuran」は、肝臓の線維化や肝機能の血液マーカーとの強く関連があり、従来の「肝臓の一部を採取する検査」で得られた酸化脂質の量とも一致していました。
つまりこの研究により、「息を集めて調べるだけで、肝臓の酸化ストレスや細胞死の進行を評価できる」可能性が現実味を帯びてきました。
今後この技術を発展・応用すれば、肝臓病の早期発見や進行度のモニタリング、負担のない大規模健康診断が可能になるかもしれません。
研究グループの松岡悠太氏は次のように語っています。
「揮発性代謝物は、生命科学分野ではあまり研究が進んでいない、いわば未開拓のケミカルスペースです。
本研究にて開発した分析技術をさらに発展させ、この生命科学研究に残された新たなフロンティアを着実に開拓していきたいと思います」
肝臓が悪いと“息”から鉄の匂いが漏れ出す。
このことを利用した新しい診断法が、これからの医療と健康管理を大きく変えるかもしれません。