ミイラ化したチーターの種類は?
かつてアラビア半島全域に広く分布していたチーターは、人間による開発や狩猟の影響で、すでにこの地から姿を消してしまいました。
その生息域は歴史的に見ても98%以上が失われていると推定されています。
今回のミイラ個体や骨格からは、DNAの全ゲノム解析も実施されました。
その結果、最も古い個体は「ノースウェスト・アフリカチーター(学名:Acinonyx jubatus hecki)」系統に近い遺伝的特徴を示し、比較的新しい個体は「アジアチーター(学名:A. j. venaticus)」に近いことが分かりました。
これはアラビア半島がさまざまなチーター系統の交差点だったこと、そして単一の遺伝子系統だけでなく、複数の祖先集団が存在していたことを意味します。

この知見は、近年注目されている「リワイルディング(野生復帰)」計画にとっても極めて重要です。
アジアチーターは現在、イランにごくわずかしか生息しておらず、絶滅寸前の状態です。
これまで、アラビア半島でのチーター再導入には「アジアチーターの遺伝子にこだわるべきか」が大きな課題でしたが、今回の発見は「北アフリカ系統など他の遺伝的に近縁な個体群」も候補にできる可能性を示しました。
また、洞窟が「古代生物多様性の保存庫」として機能していたことも明らかになりました。
アラビア半島の乾燥地域では、過去の動物遺体がこれほど良好な状態で発見されることは極めて珍しく、これが絶滅動物の研究や野生動物管理、そして生態系復元の“ヒント”になるかもしれません。