AR×AIが変える消防士訓練の最前線
ジョージ・メイソン大学の新しいプロジェクトでは、まず訓練を行う部屋や建物を3Dスキャンやデジタルツイン技術で仮想空間に再現します。
AIがその空間を解析し、家具の配置や出入口の位置を把握した上で、どこで火が発生しやすいか、どこに要救助者がいる可能性が高いかを推定します。
この情報をもとに、現実空間に3Dの炎や煙、要救助者をARで重ねて表示。
消防士はARゴーグルやスマートフォンを使い、実際の部屋の中で、目の前で燃え広がる炎や煙、救出を待つ市民を体験しながら、消火や救助活動のシミュレーション訓練ができます。
このシステムの大きな強みは、訓練内容を消防士の経験レベルや習熟度に合わせて柔軟に調整できることです。
たとえば新人消防士には火元が1カ所だけのシンプルなケースを用意し、経験豊富な隊員には複数の火災現場や同時多発的な救助活動など、より難易度の高い状況を設定することができます。
本物の火事訓練では再現が難しい、複雑な建物や多数の市民を想定したシナリオにも対応可能です。
さらに、AIが訓練中の動きや判断の記録をリアルタイムで解析し、どこで判断が遅れたか、救助の手順が適切だったかなど、細かな評価を行うこともできます。
そのデータを活用して、次回以降の訓練内容を自動で最適化し、個人ごとに苦手克服のための課題を出すこともできるでしょう。
現在、このプロジェクトはフェアファックス郡の消防・救助隊と連携し、現場の声を取り入れながら開発されています。
ARやVR、AIといった最先端技術は、単なる便利な技術から、命を守るための強力な手段へと進化しています。
もちろん、研究チームが指摘しているように、これらが「実際の消防訓練に取って代わる」ことはありません。
それでも、安全な拡張現実での訓練を受けた後に、危険な現実の消防訓練に参加することは、消防士たちの命を守ることに繋がるはずです。
今後は消防士訓練に限らず、さまざまな現場でこうした技術の応用が検討される可能性があります。