宇宙は約333億年後にビッグクランチで終わる――最新研究が示した最有力解
宇宙は約333億年後にビッグクランチで終わる――最新研究が示した最有力解 / Credit:川勝康弘 . Canva
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宇宙は約333億年後にビッグクランチで終わる――最新研究が示した最有力解 (2/3)

2025.10.03 19:00:32 Friday

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「膨張」から「収縮」へ――最新研究が示した宇宙のシナリオ

「膨張」から「収縮」へ――最新研究が示した宇宙のシナリオ
「膨張」から「収縮」へ――最新研究が示した宇宙のシナリオ / Credit:川勝康弘

宇宙の未来を予測する――これは科学者にとって究極ともいえる難問ですが、今回の研究チームはまさにその問題に正面から挑みました。

彼らが使ったのは、「アクシオン・ダークエネルギーモデル(aDEモデル)」と呼ばれる新しい理論です。

「ダークエネルギー」とは、宇宙の膨張を引き起こしている正体不明のエネルギーですが、このモデルはそのダークエネルギーが一定ではなく、実は時間とともに変化していくのではないか、という新しい視点を取り入れています。

具体的には、「アクシオン」という非常に軽い仮想的な粒子が関係しています。

アクシオンは宇宙が生まれたばかりの頃には非常に強い力を持っていて、宇宙の膨張を促進する役割を果たしていました。

ところが時間が経つにつれ、このアクシオンの力は少しずつ弱まっていきます。

そして代わりに、それまで目立たなかったもう一つの成分「負の宇宙定数」の影響力が相対的に大きくなっていく、という仕組みになっています。

「負の宇宙定数」とは簡単に言えば、「宇宙を縮めようとする力」です。

つまり宇宙には「広げようとする力」と「縮めようとする力」が常に同居しているというのが、このモデルのポイントなのです。

これまでは宇宙を広げる力(ダークエネルギー)が圧倒的に強くて目立っていましたが、今回のモデルによると、将来的には広げる力が徐々に弱まり、縮める力が逆転する可能性があるというのです。

タイ氏らは、この仮説を元に、宇宙が今後どのような運命を辿るのかを実際にコンピューターでシミュレーションしました。

すると興味深いことに、最新の観測データに最もよく合致したのは、この「負の宇宙定数」を取り入れたケースだったのです。

「負の宇宙定数なら宇宙はいつか収縮してしまう」という考え方自体は昔から存在しましたが、今回の研究が画期的なのは、「では一体いつ収縮が始まり、どんな段階を経て宇宙が終わっていくのか」という具体的な「タイムライン」を明確に示した点にあります。

それでは、その驚くべき「宇宙の収縮」のシナリオを具体的に見ていきましょう。

シミュレーションによれば、まず現在から未来に向かって宇宙の膨張スピードは徐々に遅くなっていきます。

これは、今までは強かったアクシオンの力がだんだん弱まっていくためです。

こうして数十億年という長い時間をかけて、宇宙の膨張速度は徐々に緩やかになっていきます。

そして宇宙が現在の大きさからさらに拡大を続けて約110億年ほど経った未来、ついに宇宙の膨張は完全に止まるのです。

これはまさに「宇宙の歴史の中の重要な転換点」であり、宇宙が最大の広がりを迎える瞬間です。

このときの様子は、ブランコが最高点に達した時に一瞬静止し、その後逆方向へ戻り始めるようなイメージがぴったりでしょう。

このように一旦膨張が止まった後、宇宙では今度は逆のプロセスが始まります。

ゴムバンドを限界まで伸ばした後に手を離すと縮み始めるように、宇宙もまたゆっくりと「収縮モード」に切り替わることになります。

最初はゆっくりですが、時間とともに重力の引き戻す力が次第に強まり、宇宙はだんだん速く縮んでいきます。

こうして宇宙は「膨張」から「収縮」へと、ゆっくり方向を変えていきます。

最初は小さな変化ですが、重力の引き戻す力がだんだん強まり、宇宙の縮小速度は次第に速くなっていきます。

やがて現在から約200億年後、つまり宇宙誕生から数えると約333億年後には、宇宙全体が極限まで高密度・高温の状態に収束し、ついに「ビッグクランチ(大収縮)」と呼ばれる終わりの瞬間を迎えると予想されます。

この最期の光景は、私たちが「ビッグバン(宇宙の始まり)」と呼んできた出来事の逆再生のようなものです。

今は互いに遠ざかっている銀河が、未来には引き寄せ合って融合し、宇宙が縮んでいくにつれて温度と密度が急激に高まっていきます。

そして最終的には、あらゆるものが一点に集まり、極限的な状態に押し込まれるのです。

タイ氏らはこのシナリオに具体的な時間軸を与えました。

宇宙の総寿命は約33.3ギガ年(=333億年)という数字で表されます。

現在の宇宙の年齢は約138億年ですから、宇宙はいま人間にたとえるなら「中年期」に差し掛かったあたりだと言えるでしょう。

長らく漠然と語られてきた宇宙の最期に、初めて検証可能なかたちで「予報」を出したことが、この研究の大きな価値です。

もちろん、こうした未来はすぐに訪れるものではありません。

たとえば数十億年後には太陽が寿命を迎え地球は灼熱化し、約40億年後には銀河系とアンドロメダ銀河が衝突・合体すると予測されています。

200億年先という時間スケールは、人類はおろか太陽系すら存在しないほどの途方もない遠未来です。

したがってビッグクランチが起きるとしても、それは人類にとって「差し迫った危機」ではなく、あくまで宇宙論的な興味に属する話題だといえます。

重要なのは、この壮大な仮説が今後の観測で実際に確かめられる可能性があるという点です。

欧米の「ルービン天文台」や欧州宇宙機関の「Euclid宇宙望遠鏡」など、複数の新しい観測プロジェクトがダークエネルギーの精密測定を進める計画です。

こうしたデータが集まれば、今回のモデルが示した「宇宙はやがて縮み始める」という未来図が正しいのか、それとも別のシナリオが待っているのか、今世紀中にも判別できるかもしれません。

この意味で、今回の研究は「反証可能」な予測を提示した科学として、非常に健全な一歩だと評価できます。

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