「女性長寿」の謎を解くカギは動物の進化にあった

今回の研究から見えてきたのは、私たちが当たり前だと思っている「女性のほうが男性より長生きする」という現象が、実は人間社会だけの特別なことではなく、動物にも共通する進化的な理由があるかもしれないという点です。
人間の場合、「女性が男性より長生き」という事実は数多くの統計で示されてきましたが、今回のように動物たちの寿命差をこれほど大規模に調べ、人間の寿命差の背景にある仕組みを探ろうとした研究はきわめて珍しいものです。
研究チームは、寿命の男女差は性染色体の違い、繁殖をめぐる競争、子育てへの関わり方など、進化が何百万年もかけて形づくった生物の性質に深く根ざしていることを明らかにしました。
つまり、私たちが普段あまり意識しない進化の歴史が、生き物の寿命にまで影響を与えている可能性が示されたのです。
一方、この結果だけで「男女の寿命差は絶対に埋まらない」と言い切ることはできません。
なぜなら、この研究は動物種のあいだに見られる相関関係を示したにすぎず、繁殖戦略や子育てが直接寿命差を引き起こす原因だと証明したわけではないからです。
相関は二つの現象が同時に起きていることを示すだけで、その背後にある真の原因を特定する手がかりにはなりますが、決定打ではありません。
それでも今回の成果は軽視できません。
これまで数十種から多くても数百種だった調査対象を、一挙に千種以上へ広げることで初めて見えてくるパターンをつかんだからです。
さらに、得られた膨大なデータと解析手法は公開され、世界中の研究者が活用できる状態にあります。
これにより、今後は動物の寿命のしくみをめぐる研究が大きく加速すると期待されます。
寿命差の傾向は爬虫類や魚類などにも共通するのか。
遺伝子やホルモン、免疫のしくみはどの程度関与するのか。
今回の成果は、こうした新たな疑問や研究課題を私たちに投げかけています。