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Credit:川勝康弘
biology

カッコウたちは21種類の鳥から「お尋ね者」として警戒音を共有されている (2/3)

2025.10.06 21:00:40 Monday

前ページ種を超えた「お尋ね者」となった托卵鳥

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種を超える『対托卵』警告音の進化

種を超える『対カッコウ警告音』の進化
種を超える『対カッコウ警告音』の進化 / Credit:川勝康弘

研究チームは、托卵の被害を受けている複数大陸にまたがるの鳥の鳴き声を詳しく調べました。

特に注目したのが「ワイニング(きしむような特殊な鳴き声)」という声です。

すると驚くことに、オーストラリアやアジア、アフリカなど世界各地に生息する少なくとも21種の鳥が、それぞれの地域の托卵鳥に対して、よく似たワイニング音を出していることがわかったのです。

これらの鳥は系統的にも生息地的にも遠く離れているのに、なぜほぼ同じ音を使うのでしょうか?

研究チームは、この不思議な現象を詳しく分析しました。

まず、ワイニング音の特徴を音響分析という手法で調べました。

分析結果によれば、どの鳥もこの声を出すときには「周波数(音の高さ)」や「波形(音のパターン)」が非常に似ていました。

まるで世界の人が同じ笛を吹いて互いに合図しているような、不思議な状況です。

こうした似た声が世界各地で進化した理由について、研究チームは「音と意味が収れんし、似た鳴き声に進化した可能性がある」と説明しています。

つまり、鳥たちがそれぞれ独立して進化しながらも、同じような「音」を使うことが敵の托卵鳥に対抗するのに有効だったため、結果として世界中の鳥が似た「笛」を吹くようになったのだと推測されています。

このワイニング音は特に、托卵鳥と宿主(托卵される側の鳥。この記事では被害鳥)が複雑に入り組んだ地域ほど多く使われていることもわかりました。

托卵鳥と宿主が複雑に絡み合う地域では、約20種もの鳥がこの声を使っていました。

一方、関係が単純な地域では6種しか確認されず、その差は約3倍にもなったのです。

これは托卵鳥への対抗策として、「種を超えた協力」が重要になる地域ほど、似た声が広まりやすいことを示しています。

では実際、このワイニング音は鳥たちにどのような影響を与えているのでしょうか?

これを確かめるため、研究チームはオーストラリアで実験を行いました。

スーパーフェアリーレンとその近縁種の巣の近くに托卵鳥の模型を置き、反応を観察したところ、鳥たちはすぐさまワイニング音を出して攻撃的な行動を始めました。

さらに、この音を聞きつけた周囲の異種の鳥も次々と集まり、助っ人が急増しました。

例えばある種では、托卵鳥の模型に集まった他の種の鳥の数は、ヘビや無害な鳥の模型を置いた時に比べて約8倍も多くなったのです。

さらに研究チームは、録音したワイニング音をスピーカーから流す実験も行いました。

その結果、この音を聞いた場合には通常の警戒音よりも明らかに多くの鳥が集まりました。

特に鳥たちはスピーカーのすぐそばまで積極的に近づき、その反応は通常の警戒音とは質的に違う、より強い行動でした。

最も興味深い発見は、このワイニング音が、異なる種類の鳥同士でも問題なく通じるということでした。

研究チームがオーストラリアと中国でそれぞれの地域の鳥に、異なる地域の鳥が出したワイニング音を聞かせると、鳥たちは見知らぬ種のワイニング音にも同じように強く反応し、協力行動をとりました。

つまりワイニング音は「種を超えて通用する共通言語」として、鳥たちの間に深く浸透している可能性があるのです。

また北米では、普段この音を使わないキイロアメリカムシクイでも、アジア産のワイニング音に自分の警戒音と同じ程度に反応しました。

ただし対照との有意な差はなく、研究チームは解釈には慎重です。

それでも、この結果はワイニング音が鳥類間で広く共有される、本能的な反応を引き出す重要なシグナルである可能性を強く示唆しています。

こうした結果から、ワイニング音は単なる音ではなく、「托卵鳥という特定の敵を指し示す機能的な合図(シグナル)」であることが明らかになりました。

音の発信タイミングこそ仲間を見て学習しますが、その意味自体は種を超えて本能的に理解されるという、非常に珍しく興味深い二段階のコミュニケーションであることがわかったのです。

次ページ鳥の鳴き声から見えた『言葉の起源』の可能性

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