鳥の鳴き声から見えた『言葉の起源』の可能性

この研究から見えてきたのは、鳥たちが種を超えて音による協力をしているという驚くべき実態です。
これまで多くの研究では、危険を知らせる警戒音はそれぞれの種が独自に発達させたものだと考えられてきました。
しかし、今回の発見はその常識を大きく揺さぶるものでした。
まったく異なる種類の鳥同士でも、共通の脅威に対して同じ音の合図を使い協力することができるという可能性が示されたのです。
それは、異なる国や言語を持つ人々が、一つの合図だけで危険を察知し、一緒に動けるようなものです。
こうした共通の音の進化には、自然界の生き物が持つ高いコミュニケーション能力や、生き残るための工夫が凝縮されています。
つまりこの現象は、動物同士の協力戦略という枠を超え、人間の言語のルーツを考えるうえでも大きなヒントになるのです。
かつてダーウィンは、人間の言葉は本能的な「悲鳴」や「叫び」などの声をもとに、やがて意味を持つ単語に発展したのではないかと考えました。
今回明らかになった鳥の「ワイニング音」も、まさにこの仮説に近い性質を持っています。
もともとは生まれつき出せる単なる鳴き声(本能シグナル)だったものを、鳥たちは成長の中で学習によって意味を与え、特定の状況で使うようにしているのです。
これは、人間の言語が生まれた仕組みに似た「本能」と「学習」が結びついた中間的なコミュニケーション方法といえます。
もちろん、この研究結果には注意が必要です。
今回は特定の鳥類(托卵鳥と宿主鳥)のみを調べているため、すべての鳥類や他の動物に同じ現象が当てはまるかどうかは今後さらに調べる必要があります。
また、北米での実験では明確な差が出ていない例もあり、鳥の種類や地域によってこの音があまり強く機能しない可能性もあります。
そのため研究者たちは、「世界的に共通した性質がある」とは断定せず、「世界的な傾向が見られる」と慎重に表現しています。
それでも今回の発見は、自然界で動物たちがどのように種を超えて協力するかを理解する手がかりであり、さらに人間の言語がどのように生まれ進化してきたかという謎に迫るヒントにもなります。
今後、鳥以外の動物でも同じような現象が見つかれば、私たちが思っている以上に生き物たちが巧妙なコミュニケーションを駆使して協力していることが明らかになるかもしれません。