トゥルカナ族の遺伝子の適応進化
この「肉食健康民族」の秘密はどこにあるのか?
最新のゲノム解析が、トゥルカナ族だけが持つ“特別な進化”の証拠を突き止めました。
チームはトゥルカナ族と周辺の他民族、あわせて約800万の遺伝的多様性を比較。
その結果、8か所のDNA領域で顕著な違いが見つかりました。
中でも重要なのが「STC1」という腎臓の遺伝子です。
この遺伝子は、トゥルカナ族の多くで通常より発現量も多く、強く働いて、腎臓が「より多くの水分を再吸収し、尿の排出を抑える」働きを持つことが判明しました。
この仕組みのおかげで、極端な水不足でも体内の水分バランスを維持でき、さらに、肉食で発生する大量の老廃物(プリン体由来の尿酸など)による腎臓のダメージも防げている可能性が示唆されました。
一般的な現代人が肉ばかり食べるとすぐに尿酸値が上がり、痛風を発症しやすくなりますが、トゥルカナ族では痛風の発症率が極めて低いのです。

トゥルカナ族を見舞う新たなリスク
ただし、ここに「進化の罠」も潜んでいます。
伝統的な遊牧生活から都市部への移住が進むと、状況は一変します。
都市生活では運動量が減り、塩分や加工食品が増え、野菜や穀物を摂る機会も増加。
こうした新しい環境に、トゥルカナ族が“砂漠適応”で獲得した遺伝的特性が逆に健康リスクになる可能性があるのです。
実際、出稼ぎなどで都市に移り住んだトゥルカナ族を調査したところ、腎臓機能のアンバランスや高血圧、糖尿病などの「現代病」のリスクが高まっていたことが示されました。
これは「進化的ミスマッチ」と呼ばれる現象です。
過去の環境で有利だった遺伝的特徴が、新しい環境(=都市化や現代社会)では逆に不利に働き、病気の原因になってしまう現象を指します。
トゥルカナ族のSTC1遺伝子は、砂漠の肉食生活では「最強の武器」だったものの、都市の生活では「健康リスク」に変わる場合があるのです。
研究者たちは、この知見を生かして、トゥルカナ族や同様の先住民族がこれから直面する「都市化と健康リスク」に備えるための医療・予防戦略の開発を目指しています。
「もし現代人が真似したら」ってどういう意味? トゥルカナ族の人々は現代人じゃないの?