現代のクマムシ研究は核戦争の恐怖の中ではじまった
はじまりは、今から60年ほど前にフランスで行われた研究でした。
冷戦中の人類は常に全面核戦争の脅威にさらされており、放射線が生命に与える影響を調べるため、さまざまな生物に対して放射線を照射する耐久試験が行われていました。
1963年、調査の手はコケの中に生息していたクマムシたちにも及び、人間の致死量の500倍に相当する放射線を浴びせられることになしました。
すると驚くべきことに、クマムシは放射線に耐え、生き残っていることが判明します。
その後、さまざまな放射線(紫外線・ガンマ線に加えて鉄原子ビーム)を用いたテストが行われましたが、クマムシはあらゆる放射線環境下でも生き残れることがわかりました。
また凍結耐性を調べる試験では、クマムシは絶対零度(マイナス273度)での凍結にも耐えられることが示されました。
さらに宇宙を舞台にした研究では、宇宙船の外にクマムシを運び出して真空中に10日間晒すという試験が行われましたが、回収されたクマムシは問題なく生存していることが明らかになりました。
当時の研究者たちは、これら驚くべき耐久性能が「自然な進化によって獲得されたものとは思えない」と述べています。
全ての地球生命は自分が住む環境に適応するために進化を繰り返してきました。
しかしクマムシのような高い放射線耐性や絶対零度での凍結耐性、空気のない宇宙での生存能力は、地球で暮らすかぎりにおいては必要ありません。
いったいクマムシはどんな経緯で、これらのオーバースペックを獲得したのでしょうか?