その非ヒト属は「ゴリラの握力」と「人間の器用さ」の両方を持っていた
その非ヒト属は「ゴリラの握力」と「人間の器用さ」の両方を持っていた / Credit:Canva
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その非ヒト属は「ゴリラの握力」と「人間の器用さ」の両方を持っていた (3/3)

2025.10.17 21:45:36 Friday

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まとめ:非ヒト属は手そのものを道具とした

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今回の発見をひとことで言えば、「ヒト属だけが石器を作れるわけではなかった可能性が示された」ことが最大のポイントです。

これまで、学校の教科書や一般的なイメージでは、石器を作るという「文化的な行動」は、私たちヒト属だけが行ってきたと考えられてきました。

ところがパラントロプス・ボイセイという非ヒト属の手が、実際に石器を作ったかどうかは別として、石器を作れるほどの器用さと握力を兼ね備えていたことが明らかになったのです。

では、この発見が具体的に何を意味するのか――。

ここで重要なキーワードが、

ヒト属とパラントロプス属という「二つの系統の進化戦略の違い」です。

初期人類が暮らした約200万〜150万年前のアフリカでは、

同じような二足歩行をしていた人類の仲間たちが複数いました。

その中でも、私たちの祖先に繋がるヒト属は道具の使用を発展させる方向へ進化し、手の構造や脳の発達を「道具を作り使いこなす」という方向に大きく舵を切りました。

一方、パラントロプス属のほうは道具にあまり依存しなかった可能性が高いと考えられています。

その代わり、ゴリラのような力強さを手に入れ、歯やアゴを極限まで強化し、堅い植物をそのまま噛み砕くという、いわば「自前の道具」を進化させました。

言い換えれば、「手そのものを道具にした」ということです。

これは、パラントロプスが植物を中心とした食生活を続ける中で、食べ物に合わせて手の力が強化されていったと考えられる結果でした。

研究チームがさらに興味深いと指摘しているのは、パラントロプス属とヒト属がもともとは共通の祖先を持っていたということです。

つまり両者は、もともとよく似た手を持つ人類から出発しているのです。

ただし、そこから「生き方の違い」が明確に枝分かれし、それぞれが別々の進化の道を歩んだ――ということになります。

一方でヒト属のほうは、より精密に道具を作り、それを使って食物を調理し、加工する方向へ進化したのです。

言い換えると、ヒト属の進化は「道具を作って問題を解決する」という戦略であり、パラントロプスの進化は「自分の体を道具にする」というもう一つの進化戦略だったわけですね。

もちろん、このパラントロプスの手が実際に石器を作ったのかどうかという、直接的な証拠はまだありません。

研究チームも、この手が「石器を作れる可能性」を示しただけであって、「実際に石器を作って使っていた」とまでは断言していません。

現場から石器そのものが一緒に見つかっていないためです。

ですから、この発見でヒト属以外の人類が石器を作っていたと決めつけるのは時期尚早でしょう。

とはいえ、今回の研究成果が非常に重要な意味を持つのは間違いありません。

これまで、「石器を作る=ヒト属だけの特権」という考え方が、考古学や人類学の研究を縛りつけてきたのは確かだからです。

パラントロプスの手は、そのような固定観念に新たな視点を与える証拠となりました。

人類進化という長い道のりは、一本のまっすぐな一本道ではなく同じ時代、同じ地域で、異なる戦略を選んだ人類の仲間が複数存在し、それぞれが独自の道を歩みました。

そして、私たちが今こうしてここにいるのは、その多くの枝道の一つを選び取った結果に過ぎないのです。

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その非ヒト属は「ゴリラの握力」と「人間の器用さ」の両方を持っていた (3/3)のコメント

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器用さとパワーの両立、ひょっとしてめちゃくちゃ強かったのでは?

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