「かたちの変化」と認知症リスクの意外なつながり
さらに衝撃なのは、こうした「脳のかたちの変化」が、単なる老化現象として終わらない点です。
チームは、脳の幾何学的変化が、記憶力や実行機能(判断や計画力)のテスト結果とどう関係するかも解析しました。
その結果、テスト成績が低い人ほど、「拡張」と「圧縮」のパターンがより極端になる傾向が見つかりました。
具体的には、記憶力の低い人では側頭葉の領域どうしがより離れ、頭頂部では領域が強く圧縮する――こうしたズレが加齢そのものよりも「認知機能の衰え」と強く関連していたのです。
つまり、「脳のかたちの変化=認知症リスクの兆候」として活用できる可能性が浮かび上がってきました。
さらに注目すべきは、こうした空間的なズレは、単なる「脳の縮小(容積減少)」だけでは説明できない点です。
たとえば脳全体の大きさの差を調整した後でも、“広がり”や“圧縮”は依然として明確に残ることが確認されました。
こうした脳のかたちの変化がなぜ起こるのか、その生物学的な理由はまだはっきりしていません。
研究者は、脳の組織構造や水分バランスの変化、あるいは頭蓋骨や重力による物理的なストレスなど、複数の要因が関わっている可能性を指摘しています。
特にアルツハイマー型認知症の初期変性が起こる「内嗅皮質(ないきゅうひしつ)」は、頭蓋底という硬い骨に近接しているため、脳全体が沈み込むことで物理的な圧迫を受けやすく、「なぜこの部位が病変の震源地となるのか」という長年の疑問の新しい説明にもつながりそうです。
脳の萎縮や変形が解明されていくのは恐ろしいと同時に興味深い
ベニクラゲのような例外を除けば生物には寿命があるけど、
理論的には抗老化医学や脳手術や遺伝子治療でどこまで脳や体の寿命を延長できるんだろうか