『とりあえず繊維』は間違い? 科学的に正しい便秘ケアの選び方

「便秘になったらとりあえず食物繊維」──こんな常識は、本当に正しかったのでしょうか?
前のセクションで見たように、昔ながらの「繊維神話」は少し揺らぎ始めています。
そこで研究チームは、世界中でこれまでに実施された便秘ケアに関する75件もの研究を丁寧に集めました。
ただ集めるだけではありません。
この膨大なデータを比較・分析し、本当に「効果あり!」と言える食品やサプリだけを厳選しようと考えました。
「メタ解析」と呼ばれるこの方法は、ざっくり言うと「個々の研究結果を寄せ集めて再評価し、信頼できる結論を導き出す」科学的なテクニックです。
今回は専門家がデータを細かくチェックして、本当に便秘改善の効果が認められた食品やサプリメントを厳選しました。
その結果を、医療現場でも役立つように、59項目のガイドラインとしてまとめ上げました。
さて気になるのは、実際に「本当に効いた」と認められた食べ物や飲み物はいったい何だったのか、ですよね。
まず最初に意外にも名前が挙がったのが、みなさんもスーパーで見かける「キウイフルーツ」です。
キウイはおいしいだけではなく、便秘にも実際に効果を発揮することが今回のデータで確認されました。
1日に2〜3個のキウイを食べ続けたところ、平均で週あたりの排便回数が約0.36回増えるという結果が出ました。
たった0.36回というと少ないようですが、これは一般的に便秘解消に使われる「サイリウム(オオバコ由来の食物繊維)」と比べてもほぼ同じくらいか、少し上回る効果だったのです。
とはいえ、キウイが万能というわけではありません。
便秘で悩む人の中には、「便がすっきり出切った感じがしない」という、いわゆる「残便感」を持つ人が多くいます。
この「残便感」の改善については、キウイの果実そのものではあまりはっきりとした効果が見られず、キウイから抽出したサプリメントタイプであっても効果はやや控えめでした。
つまり、キウイは「便がスムーズに出る回数を増やしたい」人には特におすすめできますが、残便感の解消を期待して食べるのはちょっと難しいかもしれません。
次にしっかりと効果が証明されたのが、今少し触れた「サイリウム(オオバコ繊維)」です。
「やっぱり繊維効くんじゃん」と思った方、ここで大事なポイントがあります。
「繊維なら何でも効く」のではなく、「便秘に効果があると明確に確認されているのは、主にオオバコ由来の食物繊維(サイリウム)だった」ということなんです。
サイリウムはさまざまな研究で、便を柔らかくしたり、便の量を増やしたりといった便秘改善効果がはっきり示されていて、今回の分析でも最も強く推奨される食品の一つになりました。
最近、スーパーや薬局でも人気の「プロバイオティクス(乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌)」も一応、便秘への効果が認められています。
とは言っても、プロバイオティクスが効くかどうかは実は微妙で、どの菌でも便秘がスッキリ解消するわけではありませんでした。
腸内環境を整えるのに有効なのは、数多くある乳酸菌やビフィズス菌の中でも限られた一部の菌株だけ。
しかもその効果の大きさはあまり大きくなく、「効く人には効くけれど、効果は控えめ」といったところでしょうか。
(※菌株の名指し推奨にはまだ至らないもののいくつかの有名株で“効く可能性”のデータが積み上がりつつあるという状況です。ただ近年の研究ではビフィズス菌HN019株、ビフィズス菌BB-12株、ビフィズス菌DN-173010株(ダノン菌)、ラクトバチルス・カゼイ・シロタ株(通称ヤクルトのシロタ株)などが便秘に効果があると報告されています)
さらに、複数の善玉菌とそのエサをセットにした「シンバイオティクス」というタイプのサプリについては、今回はっきりとした効果が示されませんでした。
乳酸菌を摂るにしても、ちゃんと効果が確認されている種類を選ばないと、ちょっと期待外れになってしまうかもしれません。
次に注目したいのは、実は便秘薬として古くから使われているマグネシウムのサプリメント(酸化マグネシウム)です。
マグネシウムには便に水分をたっぷり含ませ、柔らかくして出しやすくする働きがあります。
昔から多くの人が便秘薬として使ってきたのですが、今回の調査でもこのマグネシウムはしっかりと効果が認められました。
便秘の症状だけでなく、それによるストレスや気分の悪さが改善され、「生活の質が良くなる」という嬉しいおまけまでついてきました。
いわば昔ながらの便秘薬に、今回の研究が科学的な「お墨付き」を与えたわけです。
次にちょっとユニークだったのが「ライ麦パン」です。
パンというと、むしろ便秘の原因になりそうなイメージがあるかもしれません。
実際、一般的な白いパンは便秘対策としてあまり効果が期待できないと言われています。
ところが今回の分析では、白いパンではなく「ライ麦を使ったパン」に便秘改善の効果があることが明らかになりました。
ライ麦パンを毎日食べ続けると、平均で週あたりの排便回数が約0.43回増加したという結果が出ました。
ただ一つ注意があって、ライ麦パンは食べるとお腹の張りや違和感を感じる人も少なくありません。
万人向けというよりは、「便秘改善のためにちょっと試してみたい人」向けの選択肢と言えそうです。
また意外な結果として挙がったのが、「ミネラル豊富な水(硬水)」でした。
そもそも硬水とは、マグネシウムや硫酸塩などのミネラル成分を豊富に含んだ水のことです。
日本では一般的に飲まれている水道水や市販のミネラルウォーターは「軟水」と呼ばれ、こうしたミネラルが少ない特徴があります。
ところがヨーロッパなどの地域では、カルシウムやマグネシウムが多い「硬水」が普通に飲まれており、この硬水が便秘に効くことが今回の研究で確認されました。
具体的には毎日硬水を飲み続けた人の多くで、「便が柔らかくなる」といった良い反応が示されたのです。
とはいえ、「便が出る回数そのもの」や「便秘による不快感」がはっきり改善したかというと、そこまでの明確な結果は出ませんでした。
硬水は便秘の改善をサポートする飲み物として優秀ですが、単独で便秘を完全に治すほどの劇的な効果はありません。
他の方法と組み合わせて使うのがベストでしょう。
ここまで見てきて、逆に「効果が微妙だった」とされてしまったのが、意外にも「食物繊維が豊富な食事(高繊維食)」です。
繊維たっぷりの食事は間違いなく健康には良いのですが、便秘改善に「はっきり効いた」と言えるほどの確かな証拠は得られませんでした。
正確に言うと、繊維全般が効かないということではなく、効果が証明されたのはオオバコ繊維(サイリウム)のような特定の繊維だけでした。
他の繊維(たとえば野菜やフルーツ由来のものなど)は、現時点では「効果あり」と科学的に言えるほどの証拠は乏しいという結果でした。
さらに、日本でも人気が高い「センナ茶(便秘茶)」も便秘改善に関しては微妙な結果でした。
センナという植物を使ったお茶は昔から便秘改善のために飲まれていますが、今回の調査では研究ごとの結果がバラバラで、統合的に分析すると、残念ながら全体として明確な効果は認められませんでした。
「センナ茶を飲んで便秘が解消した」という人もいれば、まったく効果がない人もいる、ということです。
日本人にとって馴染みのある「プルーン(乾燥スモモ)」も検証対象になりましたが、こちらもやや控えめな結果に終わりました。
便秘改善に関してプルーンは「サイリウム(オオバコ繊維)」と比べてもほぼ同じか、むしろやや弱い効果しか見られず、便の硬さが改善するかどうかについては、はっきりとした差は認められませんでした。
つまりプルーンも、「便秘を解消する効果を期待して食べるとやや物足りないかもしれない」という結果です。
ここまで研究結果をざっと整理してきましたが、どうやら便秘対策として効果が明確な食品やサプリメントは、「意外と少ない」と言わざるを得ません。
そして、「とりあえず繊維」といった従来のアドバイスが、いかに曖昧なものであったかもわかってきましたね。
では、こうした研究結果を私たちの日常生活にどう生かしていけばよいのでしょうか?
そして、この研究の結果には、どんな限界や注意点があるのでしょうか?
最後のセクションでは、便秘ケアに対する新しい常識の具体的な意味や、これを日常生活にどう取り入れていけばよいのかを、もう少し掘り下げて見ていきます。