釘を刺しても燃えないリチウムイオン電池を開発
釘を刺しても燃えないリチウムイオン電池を開発 / Credit:Designing safe and long-life lithium-ion batteries via a solvent-relay strategy
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釘を刺しても燃えないリチウムイオン電池を開発 (3/3)

2025.10.24 21:00:46 Friday

前ページリチウムイオン電池の弱点を克服—革新的な温度スイッチ戦略

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穴が開いても燃えない—常識を覆す電池への期待と課題

穴が開いても燃えない—常識を覆す電池への期待と課題
穴が開いても燃えない—常識を覆す電池への期待と課題 / パックが破裂寸前になっている末期状態にあるリチウムイオン電池/Credit:Canva

今回の研究で画期的だったのは、リチウムイオン電池の安全性を「電解液を切り替える」という発想で大きく向上させたことです。

従来、電池の安全性と性能(長寿命や高エネルギー密度)はどうしても「どちらかを取ればどちらかを犠牲にする」という二律背反の関係にありました。

しかしこの研究は、分子レベルの微妙な「握手」と「手放し」を温度によって巧みに切り替えることで、この矛盾をみごとに乗り越えました。

4.5Vでの運用を保ったまま安全性を大きく改善できることが示されたのです。

では、この新しい「温度スイッチ型」の電解液が、実際の私たちの生活にどのような変化をもたらすのでしょうか?

例えば電気自動車の分野を考えてみましょう。

電気自動車に搭載されているリチウムイオン電池は、少しでも軽く、小さく、たくさんの電気を蓄えられるように設計されています。

ところが、そうした高性能電池は熱暴走の危険性が高く、安全を確保するために重くて高価な冷却装置や防爆構造が必要になってしまいます。

これが、電気自動車の設計にとって大きな制約となっています。

しかし、今回の新電解液が実用化されれば、この熱暴走のリスクが根本から大幅に低減され、冷却システムや防爆構造をよりシンプルかつ軽量化できる可能性があります。

その結果、車体重量が軽くなり、より快適で長距離を走れる電気自動車が登場するかもしれません。

これまでよりも安全に、しかも効率よく電気を貯めて運べる電気自動車が当たり前になる時代が見えてきたのです。

さらに、私たちが日常的に使っているスマートフォンやノートPCなどの小型電子機器にも大きなメリットがあります。

電池の発熱や発火のトラブルは、これらの機器の性能を制限し、製品回収(リコール)などの問題も引き起こしてきました。

しかし、今回の電解液が普及すれば、そうしたトラブルが劇的に減ると考えられます。

発火のリスクを心配せずに、より高性能で容量が大きく、高速で充電できるバッテリーが搭載されるようになる可能性があります。

より快適で安心できるデジタルライフが実現される未来が近づいています。

もちろん、こうした理想的な未来が実現するにはいくつかの課題が残っています。

まず、この新電解液を実際に大量生産して普及させるには、コスト面での課題や長期間安定して性能を発揮するかどうかなど、さらなる検証が必要です。

とはいえ、この研究では、すでに実用レベルに近い1.1Ah(アンペアアワー)級の電池セルを使って、その安全性と長寿命性を明確に実証しています。

これはまさに実用化に向けた重要な一歩です。

また、今回の溶媒リレー戦略は、現在広く使われているリチウムイオン電池に新しい電解液を入れ替えるだけで済むため、既存の電池製造ラインをそのまま使うことも検討の余地があります。

さらに将来的には、リチウムイオン電池以外の次世代電池(例えばナトリウムイオン電池など)にも、この電解液の基本的な設計思想を応用できる可能性があります。

こうした拡張性の高さも、この研究成果が持つ大きな魅力の一つです。

さらに論文の補足資料では、電池の性能を高めるために、フッ化エチレンカーボネート(FEC)という添加剤を使った検証も報告されています。

FECを加えることで、より高い電圧(4.5Vを超える範囲)での酸化耐性が改善されることが示されました。

つまり、性能にはさらなる伸びしろがあるということです。

今回の研究成果は画期的であり、私たちの電池に対するイメージや未来への期待を大きく変えるものであることは間違いありません。

「穴が開いたら爆発する電池」というこれまでの常識が覆され、近い将来には「穴が開いても燃えない電池」が現実になる可能性が見えてきました。

電池という当たり前の存在をより安全で信頼できるものへと進化させようとする科学者たちの粘り強い挑戦が、いよいよ実を結びつつあるのです。

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釘を刺しても燃えないリチウムイオン電池を開発 (3/3)のコメント

ゲスト

リチウムイオン電池で使うよりリン酸鉄リチウムとかナトリウムイオン電池なんかで使う方が有望そうな技術ですね。
あえてリチウムイオンにこだわるのならシリコンカーバイドの方に採用すると、弱点だった電極が大きく膨張するっていう欠点をカバーできるのでいいかもしれないという感じですね。
大きく膨張して万が一短絡起こしても大きな事故につながらないわけですし。

ゲスト

これは良いアイデアですね。温度上昇により特性が変化すれば、爆発・発火には至らないわけで。
おまけに寿命向上も付いてくるなんて、なんてお得な。

    ゲスト

    是非とも早期に実用化と普及に到達してほしいですね。そこら中で発火してる現状見るに、全て入れ替えたいです。(切実)

    ゲスト

    有望そうな新技術をみると本当にワクワクするね。しかしこういう新技術、消費者の手元に届くまでに頓挫するケースが多いのが困っちゃう。

ゲスト

「釘を刺しても発火しない安全性」と「長寿命」を謳うバッテリーなら、日本で既に商品化されていたりする。
「準固体電池」という呼称が使われているようだが、その準固体電池を用いた商品は、私が知る限りでは少なくとも四社から出ており、モバイルバッテリーからポータブル電源までと意外にも幅広い。楽天でもAmazonでも見かけた。
ネックは価格の高さ。同容量で比較した場合、どのメーカーのものも従来型バッテリーの倍〜数倍ほどの価格だった。ポータブル電源ならリン酸鉄の方がまだ安いぐらい。この辺りは安全性とのトレードオフか。
専門家ではないので、記事のものと同じ仕組みかどうかまではわからないが、参考までに。

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