銀河中心から離れた大質量ブラックホールが星を飲み込むイメージ画像/Credit: NSF/AUI/NSF NRAO/P.Vosteen
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星を引き裂く超大質量ブラックホールが銀河内を彷徨っている (2/2)

2025.11.08 21:00:33 Saturday

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銀河を彷徨う星喰いモンスターに襲われると何が起きるのか?

AT 2024tvdで起きたのは、まるで星が「暗黒の巨獣」に引きずり込まれる瞬間のような出来事でした。

まず、星がブラックホール重力圏に入ると、両者の引き合う力の差によって星の片側と反対側で強烈な引っ張り合いが生じます。これを潮汐力(ちょうせきりょく)と呼びますが、その力は星の内部をずたずたに引き裂くほど強力です。

破壊された星の破片は、巨大な炎のようにブラックホールの周囲を渦巻きながら落ち込んでいきます。このとき、摩擦と圧縮によって莫大な熱と光が生まれ、銀河の彼方でも観測できるほどの閃光を放ちます。

AT 2024tvdの場合、1度星を飲み込んだブラックホールがしばらく沈黙した後、再び暴れ出したかのように、もう一度強烈な光を放ちました。

第1の増光は発見から約130日後に急上昇し、数十日でしぼみました。

その約2か月後に再び明るくなり、数週間で急速にピークへ達して、すぐに暗くなっています。

通常、潮汐崩壊現象では明るさの増光は数カ月という長い期間を掛けておこります。この明るさの変化は、これまでの潮汐崩壊現象で見られた中でも例のないレベルの急激さです。

しかも、第2フレアのピークの明るさは第1フレアのおよそ3倍に達していました。

この通常の潮汐崩壊現象と異なるふるまいは、このブラックホールが銀河中心から離れた場所にある放浪者だったからこそ起きた可能性があります。

今回の急激な光の変化について、研究チームが検討している可能性は次のようなものです。

ひとつは、銀河中心ではなく銀河内を移動するブラックホールだったゆえの環境変動説です。

銀河の中心から弾き出されて放浪しているブラックホールの周囲では、ガスの密度や磁場の向きが一定ではありません。そのため、星を引き裂いた破片が落ち込むとき、ある瞬間に濃いガスの層や磁場の強い領域にぶつかり、エネルギーを一気に解放される可能性があります。

これが、通常の潮汐崩壊現象よりもはるかに速い明るさの変化を生んだ可能性があります。

もうひとつは、ブラックホールのスピン軸のズレによる“噴出の再点火”説です。

もしブラックホールの回転軸と、星が回り込んだ軌道面がずれていた場合、周囲の降着円盤や噴き出し(ジェット)は歳差運動(こまの軸がブレるような運動)をします。その軸がやがて観測者の方向に向き直った瞬間、
同じ噴出が再び強い光として見えた可能性があります。

つまり、銀河の中心から離れて移動していたため、回転の向きや噴出の方向が不安定になり、再び強烈なフレアが観測されたという可能性です。

こうした複数の要因が重なり、AT 2024tvdでは通常よりも短い間隔で二度のフレアが起きたのかもしれません。

ブラックホールの重さは太陽の10万〜1000万倍程度と見積もられ、中間質量と超大質量のちょうど境目あたりの値です。

この位置と重さ、そして電波のふるまいから、起源としては合体などの重力作用で中心からはじき出された(リコイル)、あるいは小さな銀河との合体で取り残されたといったシナリオが可能性が高いと考えられます。

ただし、潮汐崩壊現象という結果だけで起源を断定することはできません。

今後、ZTFのような広域観測と電波望遠鏡の追跡観測によって同様の事例が増えれば、放浪ブラックホールの生い立ちがよりはっきりしてくるはずです。

スファラディ氏は、「こうした事例を積み重ねることで、銀河の成長やブラックホールの進化の理解がいっそう深まる」と述べています。

銀河の中心から明確に離れた位置で星を引き裂くほどの巨大な質量を持ったブラックホールが彷徨っている。

私たちが見上げる夜空のどこかで、そんな“暗黒の捕食者”が潜んでいるというのは、なんとも恐ろしくて神秘的な話です。

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