脳は「9歳・32歳・66歳・83歳」で配線パターンが大きく切り替わる
脳は「9歳・32歳・66歳・83歳」で配線パターンが大きく切り替わる / Credit:Canva
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脳は「9歳・32歳・66歳・83歳」で配線パターンが大きく切り替わる (2/3)

2025.11.26 21:30:20 Wednesday

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「9歳、32歳、66歳、83歳」──脳が静かに線路を切り替える年齢

「9歳、32歳、66歳、83歳」──脳が静かに線路を切り替える年齢
「9歳、32歳、66歳、83歳」──脳が静かに線路を切り替える年齢 / Fig.6c は、「脳配線の一生」を一本の道として描き、その道の途中にある4つの曲がり角がどれくらい“強いカーブ”なのかをまとめて見せている図です。3次元の空間の中に、年齢とともに変化する脳ネットワークの状態が線のように伸びていて、その線上に9歳・32歳・66歳・83歳の位置に黒い球が置かれています。これが4つの転換点で、「ここで脳の配線パターンの進む向きが変わっている」という印です。その横には、それぞれの転換点ごとに小さな表が並んでいて、「Direction」はどれだけ多くの指標で“増える→減る”のように関係の向きがひっくり返ったか、「PCA」はまとめて見たときに前後の時代の平均的な配線パターンがどれくらい違うか、「Trajectory」は曲線の形そのものが前の時代と次の時代でどれくらい違うかを示しています。数字が大きいところ、★印が多いところほど「ここは本当に大きな曲がり角ですよ」という意味で、図全体を見ると32歳のところが3つの指標すべてで特に大きく、9歳と66歳は性質の異なる中くらいのカーブ、83歳は比較的おだやかなカーブとして描かれています。つまりFig.6cは、「脳の配線の旅路には4つの節目があるが、その中でも32歳がいちばん強く進路を変えるポイントだ」ということを、ひと目で分かるように整理した“まとめ図”になっています。83 歳あたりは「勾配(曲がり方)」は確かに鋭いですが、 複数の指標をまとめて見ると、ネットワーク全体の路線変更としては32歳がもっとも大きくなっています。/Credit:Topological turning points across the human lifespan

の成長を考えるとき、「子供時代」「大人時代」「老人時代」のような呼び方をよく使います。

しかし実際の脳の中では、そのような時代ごとの明確な違いが本当に存在するのでしょうか?

今回の研究チームはこの疑問を解明するため、まず脳の画像データを大量に集めるところからスタートしました。

具体的には、0歳から90歳まで幅広い年代をカバーした、合計4,216人分の脳画像を用意しています。

その中から、健康で特に問題のない約3,800人を選び出し、解析を行いました。

では、実際にはどんなふうに解析するのでしょうか。

脳というのは、たくさんの「場所(領域)」に分かれていて、それぞれが情報をやりとりしています。

今回の研究では脳全体を90の領域に区切り、それぞれの領域が他の領域と「どのくらいつながっているか」を詳しく数値で測りました。

イメージとしては、町全体を90個の地区に分けて、それぞれの地区同士を結ぶ道路がどれだけ太く、どれだけ数が多いかを調べたような感じです。

すると、非常に面白いことが分かりました。

脳の配線の状態は年齢ごとに一定のリズムを刻んでいるわけではなく、ある特定の年齢で特に大きな変化が起こっていたのです。

それが9歳、32歳、66歳、83歳という4つの年齢でした。

研究者たちはこれらの年齢を「脳の転換点」と呼んでいます。

これらの転換点を区切りとして、脳は生涯にわたり5つの異なる「配線の時代」をたどっていることが分かりました。

まず、0歳から9歳頃までは「子ども脳の時代」です。

この時期の脳は、とにかくあらゆる領域が数多くの回線でつながっています。

そのおかげで多くのことを一度に覚えるための土台が整っていると考えられますが、反面、配線が複雑すぎて効率が良いとは言えません。

実際、この9歳前後という時期は、脳の認知能力が急激に伸びる一方で、精神的にも揺れ動きやすく、精神疾患のリスクが高まることが別の研究で報告されています。

9歳を過ぎると、「長い思春期モード」の時代が訪れます。

この時期には、複雑すぎる脳の配線を少しずつ整理していきます。

先にも少し触れましたが、イメージとしては、曲がりくねって絡まり合った道路網が、直線的で無駄のない高速道路へと整備されるような感じです。

この整備によって、情報の流れが非常にスムーズになり、脳のネットワーク全体の効率が30歳前後でピークを迎えます。

この研究のデータでは、脳のネットワーク効率が明確に向上し続けるのはこの時代だけであることが確認されています。

研究者たちは特にこの32歳という年齢を「生涯で最大の転換点」と位置づけています。

32歳を境に、効率アップ期間が終わり、以降は“分業化と安定”が進む時期になるからです。

論文ではこの点について「このネットワークの安定期は、知能と人格のプラトーとも重なる」と述べています。

つまり個人レベルでは、だいたい30代前半までが“脳の配線を大きく作り替える余地が一番大きい時期”で、その後は“今ある配線を維持・微調整しながら使っていく時期”に入るわけです。

あるいは、これまでの工事で作ってきた“自分仕様の配線”を、これ以上大きく組み替えずに長く使っていくフェーズへの切り替え点とも言えるでしょう。

実際、32歳を超えた「安定した大人期」の32〜66歳では、配線の転換点のような大きな変化はあまり起こりません。

もちろん、全く変化しないわけではなく、思春期よりは緩やかな変化が続いています。

ただ脳のネットワークの中で「どの場所が特に重要か」を示す「中心性」と呼ばれる指標は、この時期には他の時期ほど大きくは変動しません。

この時期の脳は新しい道路を増やすより、既存の道を補修しつつうまく管理していく、そんなイメージが近いでしょう。

そして66歳を過ぎると、脳は再び変化の時代、「前期老化モード」に入ります。

この段階では、脳内の「地区」はいくつかの「島」に分かれ、それぞれの島が独立して動くような構造になります。

こうした「島構造」が進むことで、脳の情報のやり取りは島の内部で閉じたものとなり、全体的な連携が減っていきます。

最後の83歳以降の「後期老化モード」では、この傾向がさらに強まっていると考えられます。

脳全体のつながりは弱くなり、一部の重要な場所(ハブ)だけが特に強く機能するようになる「ローカル依存」の状態に近づきます。

昔は街中に張り巡らされたたくさんの道が、やがて数少ない主要な交差点を中心に運営されるようになる感じと言えるでしょう。

次ページ脳には5つの時代がある? 子ども・思春期・大人・前期老化・後期老化

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