一日500mLのオレンジジュースで、血圧・炎症・脂肪の遺伝子が静かに変わる

まず研究チームは、慢性の病気がない20〜30代の男女20人を集めました。
最初に3日間、柑橘類を食べない期間を設け、その後60日間、1日500ミリリットルの100%オレンジジュースを2回に分けて飲んでもらいました。
その間、他の柑橘食品は控えてもらい、ジュースが主な柑橘源になるようにしました。
ジュースを飲み始める前と60日後に、参加者から空腹時に採血し、リンパ球や単球など免疫の主力部隊を取り出して、遺伝子の働き方を調べました。
オレンジジュースを飲む前と後では、血液中の免疫細胞の中にある遺伝子の働き方がかなり変わっていました。
とくに、タンパク質の設計図になっている遺伝子活性が1705個も動いていたほか、スイッチ役の小さなRNAであるmiRNA(ほかの遺伝子を調整する小さなRNA)が66個、長い調節役であるlncRNA(長いRNA)が19個、ほかのRNAを加工する係のsnoRNAが67個、まとめて動いていました。
また変化の大きさは、ほんの少しではなく、おおむね1.5〜数倍(一部は数十倍)の範囲とかなり大きな変動がみられました。
次に、変化した遺伝子がどんな働きのグループに多いかを調べました。
すると、血圧の調節、脂質代謝や熱産生(脂肪の燃焼)、炎症、細胞接着、シグナル伝達経路に関わる遺伝子が、多く含まれていることが分かりました。
より具体的には、高血圧と関連する遺伝子が下がり、炎症のスイッチ役の遺伝子も抑えられ、脂質や脂肪細胞に関わる遺伝子などは「より健康的なプロファイル」と著者らが解釈できる方向に変化していました。
さらに研究チームは、参加者を普通体型(標準体重)グループと、やや体重が重め(過体重)グループに分け、同じ解析を行いました。
その結果、普通体型のグループでは、主に炎症の経路や免疫シグナルに関わる遺伝子が大きく動き、重めのグループでは、脂質代謝や脂肪細胞の形成に関わる経路がより強く変化していました。
このことから、同じオレンジジュースを飲んでいても、体重によって「どのスイッチが押されやすいか」が違う可能性が見えてきます。
これは、オレンジジュースの持つ生体作用が人それぞれの体質によって異なる可能性を示すものです。
では、なぜオレンジジュースを飲むだけでこれほど多くの遺伝子が動かされるのでしょうか?
鍵を握るのは、オレンジジュースに豊富に含まれる先述のフラボノイド(ポリフェノール)です。
研究者たちはコンピューターシミュレーションを使用して、ジュース中のフラボノイドは体内で分解されその分解物が体内で遺伝子発現を制御する転写因子(遺伝子のON/OFFを決めるタンパク質)に結合しうることを予測しました。
つまりオレンジジュース由来の代謝物が、これら遺伝子スイッチの「鍵穴」にスッと入り込んで結合し、そのスイッチのオン・オフ具合を調整する可能性があると考えられるのです。
イメージとしては、ジュースが鍵で、遺伝子のスイッチが鍵穴です。
ジュースを飲むと、その鍵がぴったり合って遺伝子のスイッチを少しだけ切り替え、体の健康バランスを整える手助けをするのです。























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