手元の音を増幅させると、「今」に集中できると判明
心理学や医学の分野で用いられる「マインドフルネス」とは、注意を「今この瞬間」に戻し、そこで起きている体験に好奇心や開放性をもって気づいている心の状態を指します。
ストレス軽減、集中力の向上、感情コントロールの観点で、このマインドフルネスが注目されています。
瞑想や呼吸法を思い浮かべる人も多いかもしれませんが、マインドフルネスは本来、手を洗う、服をたたむといった日常の行為の中でも育てられるものです。
しかし研究チームは、スマートフォンや通知に囲まれた現代社会では、こうした「日常的マインドフルネス」を保つこと自体が難しくなっていると考えました。
そこで注目されたのが、私たち自身の行動が自然に生み出している音です。
手のひらをこする音や、ペン先が紙を擦る音のように、普段は意識されにくい微細な音には、注意を「今」に戻す手がかりが隠れているかもしれないからです。
研究で開発された装置は、構造としては非常にシンプルです。
両手首に小型マイクを装着し、手の動きによって生じる音を拾い、それをリアルタイムでわずかに増幅してイヤホンに返します。
新しい音を作り出したり、言葉による指示を与えたりすることはありません。
研究チームは60人の参加者を対象に、実験室内で検証を行いました。
参加者は、いくつかの物体を自由に触って観察する課題に取り組みます。
使われた物体は、はさみ、収納袋、紙コップ、マーカーと紙のセットなどさまざまでした。
半数は音の増幅あり、半数は増幅なしの条件で比較されました。
その結果、音の増幅を受けた参加者は、主観的に感じるマインドフルネスの水準が有意に高いことが示されました。
さらに行動面でも、物体を扱う時間が長くなり、試行錯誤しながら探索する行動が増える傾向が確認されました。
ここで重要なのは、作業の効率が上がったというより、注意が対象に留まり続けていた点です。
急いで終わらせるのではなく、対象のさまざまな側面を確かめるように関わる時間が増えたことが、この研究の特徴です。
では、なぜ手元の音を強調するだけで、このような変化が生じたのでしょうか。





























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