VTuber卒業はファンに大きな喪失をもたらすとの研究結果が発表
VTuber卒業はファンに大きな喪失をもたらすとの研究結果が発表 / Credit:“Can’t believe I’m crying over an anime girl”: Public Parasocial Grieving and Coping Towards VTuber Graduation and Termination
psychology

VTuber卒業はファンに大きな喪失をもたらすとの研究結果が発表 (2/3)

2025.12.22 18:30:31 Monday

前ページ会ったことないのに、友達みたいな気軽なやりとり

<

1

2

3

>

悲しみは減るのに、後悔は増え続ける

悲しみは減るのに、後悔は増え続ける
悲しみは減るのに、後悔は増え続ける / この図は、桐生ココさんと潤羽るしあさんについて、引退の話題に関係するRedditの投稿・コメント数が、時間の経過とともにどう増えたり減ったりしたかを並べた図です。 いちばん大きい山は引退の告知や大きな出来事の直後に立ち、その後はいったん落ち着きますが、節目のイベントが来るたびに小さな山が戻ってくるのが特徴です。 つまり推しの別れが「一回の騒ぎ」で終わるのではなく、出来事の節目ごとに思い出が呼び起こされて、話題が何度も再点火する――そんな“余韻の波”を見せたものと言えるでしょう。/Credit:“Can’t believe I’m crying over an anime girl”: Public Parasocial Grieving and Coping Towards VTuber Graduation and Termination

今回の研究チームは、VTuberが卒業したり契約解除されたりすると、ファンの気持ちがどのように変化していくのかを実際のデータを使って調べました。

方法は非常に地道です。

研究者たちは、海外の掲示板「Reddit」(レディット)に書かれた約3年分の投稿やコメントを集め、実際に一つひとつ読んで分析したのです。

対象となったVTuberは、日本の大手VTuber事務所ホロライブに所属していた「桐生ココさん」(2021年卒業)と「潤羽るしあさん」(2022年契約解除)の2人です。

集められたデータの数はとても膨大で、投稿が1293件、それに付いたコメントが12,362件にもなりました。

この中から研究者たちは、ファンがどんな感情を表しているか、丁寧に読み解いて分類していきました。

最初に見えてきたのは、引退が発表された直後にファンが感じる強烈なネガティブな感情でした。

たとえば「悲しい」という気持ちは単に「悲しい」だけではなく、「痛み」という身体的な感覚として語られることもありました。

また、発表を知った瞬間の驚きやショックは、まるで悪い夢を見ているような現実感の喪失として表現されました。

「こんな悪夢、早く終わってくれ!」とか、「嘘だと言ってくれよ!」といった叫びにも似た反応が次々と書き込まれています。

さらに、「鳥肌が立った」「めまいがした」「吐き気を感じた」など、ショックが体にまで影響を与えていることを伝えるファンも一部にはいました。

とくに契約解除のように推しが急に消えてしまったことで、ファンは本人の健康状態を真剣に心配し、「どうか無事でいて」「メンタルが心配だよ」といったコメントを寄せています。

また、突然の引退に対するファンの怒りは本人だけでなく、運営側にも向けられました。

特に契約解除の場合は、本人だけでなく運営側の対応に不満が集中する傾向がありました。

「卒業って言ってるけど、これって実質解雇じゃないの?」とか、「せめて最後の配信くらいさせてほしかった」など、運営側の処置に納得がいかないファンの声も強く出ています。

こうしたファンの中には、「もうVTuberを見るのをやめる」といった絶望的な言葉を残す人もいました。

しかし現実と同じように、人間の心がいつまでも同じ状態でいることはない、という当たり前の法則もはっきり示されています。

激しい悲しみや怒りといったネガティブな感情は、時間の経過とともに少しずつ薄れていきました。

これ自体は人間心理の自然なパターンとも言えます。

ところが、驚くことに「時間が経ってから強くなる感情」もあったのです。

それが「後悔」と「忠誠心」です。

ファンはケースによっては時間が経つほど、「もっと早く推しを知っていれば」「もっとたくさん応援しておけば」といった後悔を深くする傾向がありました。

また、配信がなくなってしまった後も、「これからも絶対に忘れない!」「彼女がどこにいてもずっとファンでい続ける!」といった忠誠心を示す言葉も増えていったのです。

(※この論文で使われているloyalty(忠誠心)は、引退後も忘れず応援し続ける「ファンとしての継続意思」に近い意味です。)

研究者たちは、悲しみが表面では薄れても「推しがいたこと」そのものが人生の一部として残り、時間がたつほど思い出が効いてくるためではないかと考えています。

私たちはつい、VTuberへの気持ちを軽い趣味や娯楽として割り切ろうとしてしまいます。

しかし、日々の積み重ねによって育まれたその感情は、やはり本物で、簡単に割り切れるものではないようです。

「名前を呼ばれたこと」「一緒に笑ったこと」「一緒に泣いたこと」、そうした小さな思い出が積み重なった結果、推しとの別れは心にぽっかり穴を開けるような、特別な喪失感になってしまうのです。

次ページ別れ方の設計が、心の痛みを左右する

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

心理学のニュースpsychology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!