問題は「限界」ではなく「格差」だった
一方で、すべての地域が順調というわけではありません。
1990年代から2000年代前半にかけては、寿命の短かった地域ほど急速に改善し、ヨーロッパ全体で格差は縮小していきました。
しかし2005年前後を境に、その流れは止まります。
東ドイツ、ベルギーのワロン地域、イギリスの一部などでは寿命の伸びが大きく減速し、ほぼ停滞しました。ヨーロッパは「伸び続ける地域」と「停滞する地域」に分かれ始めたのです。
研究が特に注目したのは、55〜74歳の死亡率でした。
乳児死亡率は低いままで、高齢層の死亡率も全体としては改善を続けています。しかし、55〜74歳、とくに65歳前後の死亡率の低下が鈍化し、一部地域では再上昇しています。
この年代は死亡数が多いため、ここでの停滞は全体の平均寿命を強く押し下げます。
要因として考えられるのは、喫煙や飲酒、栄養バランスの乱れ、運動不足といった生活習慣です。
また、2008年の経済危機は地域差を拡大させました。経済的に打撃を受けた地域では健康状態が悪化する一方、高度な雇用が集中する地域では改善が続きました。
つまり、寿命の伸びが鈍化している背景には「人類の生物学的限界」よりも、社会的・経済的要因が色濃く関わっている可能性が高いのです。
問われているのは「どこまで」より「誰が」
この研究が示したメッセージは二重です。
第一に、人間の寿命はまだ伸びる余地があるということです。少なくとも一部地域では、その証拠がはっきりと存在します。
第二に、その恩恵は均等ではないということです。
現在のヨーロッパは、寿命を押し上げ続ける地域と、停滞する地域に分かれつつあります。
これから問われるのは、「人類は何歳まで生きられるのか」という問いだけではありません。
「どの地域の人々が、その延び続ける寿命を享受できるのか」という問いです。
寿命の未来は、細胞の限界よりも、社会のあり方にかかっているのかもしれません。



























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