ブラックホールが生まれる直前、「時空は結晶」になる――時空結晶の数式化に成功
ブラックホールが生まれる直前、「時空は結晶」になる――時空結晶の数式化に成功 / Credit: TU Wien
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ブラックホールが生まれる直前、「時空は結晶」になる――時空結晶の数式化に成功 (2/4)

2026.05.25 20:00:09 Monday

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時空結晶を数式化することに成功

時空結晶を数式化することに成功
時空結晶を数式化することに成功 / 論文で「時空結晶」と呼ばれる構造の直感的な姿。ブラックホール形成の境界で現れる「時空結晶」の模式図。上へ進むほど時空の曲率が細かく振動し、特異点へ近づいていきます。/Credit: Ecker et al., Physical Review Letters 136, 191401 (2026), DOI: 10.1103/qgl5-5l3t, CC BY 4.0

2026年、ついに ── 物理学者たちのもとに、一通の「答え」が届きました。

3人の研究者からなるチームが、ブラックホールになるギリギリで現れる「時空の結晶」を数式で表すことに、ついに成功したと発表したのです。

注目すべきはその手法です。

普通、こういう難問を解くときには、問題をなるべく単純化して取り扱う次元などを減らしていくのがセオリーです。

難しい要素を切り捨てて、扱いやすい形にして攻めるというのは、受験問題だけでなく先端数学でも同じです。

ところが今回のチームが選んだのは、その逆の発想でした。

研究チームは、ブラックホールが生まれる「時空の結晶」の方程式を、わざわざ次元数がものすごく大きい架空の宇宙で書いてみたわけです。

普通に考えれば、次元を増やせば増やすほど計算は複雑になりそうです。

1次元の直線より2次元の平面、平面より3次元の立体のほうが扱いにくい ── 直感的にはそうなるはずです。

ところが、次元の数を「無限大に近い大きさ」まで持ち上げると、なぜか方程式がスッキリ単純な形に化けてしまったのです。

嘘のようですが、近年になって物理学の世界では次元数を大きくする手法(ラージD展開)がじわじわ注目を集めていました。

次元を大きくすると、1つ1つの次元の影響度のようなものは、全体から見て小さくなっていきます。

物理の方程式というのは、こういう「小さな数」を一つ手に入れると、急に扱いやすくなる場合があるのです。

難しい部分を「これは小さい数なので、まずは無視しちゃおう」と棚に上げて、シンプルな骨格だけを取り出すことができるからです。

つまり研究チームは、「次元数をわざと巨大にすることで、人為的に”小さな数”を一つ作り出した」わけです。

そして、その小さな数を頼りに方程式を解いてみたところ ──

あれほど30年間誰にも解けなかった「時空の結晶」が、最低次の近似のレベルでは、たった一つの時間の関数 β(τ) で驚くほどシンプルに書けてしまったのです。

β(τ) = cos(2πτ) + sin(6πτ) / 15.9476

研究チームのクリスティアン・エッカー氏(フランクフルト・ゲーテ大学)は、こう述べています。

「私たちの宇宙は4つの次元、つまり3つの空間次元と1つの時間次元から成り立っています。しかし原理的には、5次元、42次元、あるいは無限次元といった、より多くの次元に対応する物理方程式を書き出すことを妨げるものは何もありません」

無限次元の架空の宇宙という、現実離れした遠回りをすることで、4次元の私たちの宇宙について新しいことを言える ── こういう道筋を見つけてくるのが、理論物理学者の腕の見せどころなのです。

そして研究ではこの「無限次元バージョン」で得られたシンプルな解を、少しずつ補正を加えながら、より現実に近い次元の世界に翻訳していきました。

最初の近似(LO:最低次の近似)→ 次の補正(NLO)→ さらに次の補正(NNLO)と段階的に精度を上げていけば、大きいが有限の次元での特徴を、少しずつ取り込めることが論文では示されています。

そして核になる最低次の数式は、次のようなものでした。

物質:   Π(τ, x) = β(τ) / √(1 + β(τ)² × x²)

時空の曲率:Ω(τ, x) = β(τ)² / (1 + β(τ)² × x²)

結晶の輪郭:f(τ, x) = √((1 + β(τ)² × x²) / (1 + β(τ)²))

数式を理解する必要はありません。

ですがこの別々のものを現わした3つにどれも「1 + β(τ)² × x²」という、まったく同じ表現が、共通していることが重要なのです。

これは、物質も時空も、結晶の境界も、共通の”設計図”を持って同期して踊っていることの、数学的な現れです。

一つのリズム源 β(τ) が、物質の揺らぎ方も、時空の曲がり方も、結晶の輪郭も、すべてを同じ骨格で決めている ── これが今回の論文が見つけた、時空結晶の正体だったわけです。

研究チームのフロリアン・エッカー氏は、「私たちの手法は驚くほど安定していることが分かりました。必要な精度に応じて、追加の近似法を用いて数式を体系的に改善することができます」「これにより、これまで解析的に分析できなかったブラックホール関連現象を研究するための、新しい手法が得られます」と述べています。

なお、論文の謝辞でグルミラー氏は、1999年にウィーンで開かれた「臨界崩壊セミナー」で、ペーター・アイヒェルブルクら先輩研究者たちが自分にこの分野への興味を植え付けてくれた、と感謝の言葉を綴っています。約27年越しの「答え合わせ」でもあるわけです。

長らく「シミュレーション画面の中にしか存在しなかった」時空の結晶に、はじめて”設計図”のようなものが書かれたわけです。

次ページ『時空の結晶』の正体──そしてブラックホールへの分かれ道

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