人工的に作られた細胞が「食べて、育って、増える」

食べて・育って・DNAを複製して・分裂して増える――そんな人工細胞を創るために、研究者たちはまず、DNA・タンパク質・RNAなどの各種の部品を溶液に混ぜ込みました。これらの部品は試行錯誤の上に、大腸菌などの生き物やウイルスからとってきた部品で、それ自体はもう生きているとは言えない状態にありました。
さらに細胞にとって助けとなる化学合成されたさまざまな分子を加え、最後に細胞膜にそっくりな膜を作る脂質分子(脂肪に似た分子)を加えました。
すると、しばらくして、混ぜ込んだ部品や溶液がシャボン玉のような膜の中に包まれた状態になりました。
こうして無数の袋が作られると、そのごく一部に、運よく必要な部品をすべて揃えたものが現れます。
たとえばある幸運な膜の中には、「必要なDNA情報と、DNAを複製する酵素、DNAからタンパク質を作るための分子キット、十分な栄養分子、加えて膜の表面に飛び出て口の役割をするタンパク質のための設計図」など、研究者たちが望むすべてが含まれていました。
そして、このような幸運条件を達成したものは、興味深い動きをみせるようになります。
まず、この小さな塊は食べます。
スパッドセルは自分の表面に小さな突起を突き出しており、これは、いわば”餌をつかむ取っ手”、つまり口のように働きます。
その周囲には研究者が用意した重要部品が詰まった別の小さな袋(餌)が漂っていて、その表面には取っ手とかみ合う”相手”がついています。
取っ手が相手をつかむと、二つの袋はぐっと引き寄せられ、やがて融合します。餌とひとつになることで、細胞は中の材料をまるごと取り込み、体を大きくしていくのです。
まるで、通りすがりのお弁当と合体して、中身を吸収してしまうようなものです。
大きな部品は、こうして袋ごと受け取っていきます。
いっぽう、高エネルギー分子やアミノ酸のような小さな栄養は、わざわざ融合しなくても、膜にある穴を通って自然に出入りするものを利用します。
そして食事が終わると、この小さな塊の体は大きくなります。そして内側では、DNAの複製が始まります。
ここまでは順調です。ですが、次に来るのが長年の難問でした。
本物の細胞は、内側に張り巡らせた”骨組み”(細胞骨格)をぎゅっと締め上げることで、自分の体を2つに割ります。
しかしスパッドセルには、この骨組みがありません。
では、どうするか?

チームは、自然の仕組みを真似ることをあきらめました。代わりに選んだのは、意外なほど単純な方法です。
まず、細胞の丸い膜の表面に、小さなタンパク質を、外側からびっしりと貼りつけていきます。
最初はまばらだったのが、だんだん数を増し、やがて表面は分子ですし詰めになっていきます。
すると、混みあった分子たちが、その圧力から逃れようとして、混み合いを解消しようとする力が膜表面にかかりはじめます。
その力に押されて、細胞膜の一部が、混み合いを逃すように外へぷくりとふくらみ(出芽し)はじめるのです。
そして膨らみが大きくなると、根元がくびれ——やがて、ぷつりとちぎれて小さな泡になりました。これがこの人工細胞の分裂方法です。
しかも見事なのは、この分裂の足場になる、膜に並ぶ”目印”のタンパク質が、膜内にあるDNAの設計図をもとに作られているという点です。
分裂の引き金を引く相手役のタンパク質だけは外から加えますが、その相手をつかむ足場となる目印は、DNAの設計図から作られている。その点で、この分裂は生物らしいと言えるでしょう。
食べることも、成長することも、複製することも、分裂することも、その”入口”となる仕組みが、細胞内の「設計図」にはじめから書き込まれているわけです。


























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