そのほかの仮説とは?
別の説明として、研究者たちは「鼻粘膜の充血」も検討しています。
性的に興奮すると、生殖器では一酸化窒素という物質が働き、血管が広がって血液が集まります。
鼻の内部にも血液が集まることで膨らむ組織があるため、一酸化窒素が血流を通じて鼻にも作用し、鼻粘膜の充血や刺激を引き起こすという考えです。
しかし研究者たちは「この説明には問題がある」と指摘しています。
性的なことを思い浮かべた「直後」にくしゃみが起きる場合、生殖器で放出された物質が血流を通じて鼻へ届く仕組みでは、反応の速さを説明しにくいからです。
一酸化窒素は、主に作られた場所の周辺で働くため、鼻まで運ばれて強い作用を起こす可能性は高くないと考えられました。
また、性的誘発性くしゃみには「遺伝的な体質」が関係している可能性もあります。
光くしゃみ反射や、満腹によって起きるくしゃみには、家族内で受け継がれる例が報告されています。
そのため、研究者たちは、神経系が形成される過程で生じた遺伝的な違いによって、通常は別々に働く神経経路が影響し合いやすくなる可能性を考えました。
しかし、家族調査や遺伝子解析はまだ行われていません。
そのため、「性的誘発性くしゃみは遺伝する」と結論づけることもできません。
性的なことを考えた途端にくしゃみが出るという現象は、確かに奇妙に思えます。
しかし私たちの体を動かす神経回路は、それぞれが完全に独立しているわけではありません。
明るい光、満腹感、眉毛への刺激など、鼻とは関係のなさそうな出来事によってくしゃみが誘発される例は、ほかにも知られています。
性的誘発性くしゃみも、こうした神経信号の思わぬつながりが表面化した現象なのかもしれません。
ただし、現在までに得られている証拠は、少数の症例報告やインターネット上の自己申告が中心です。
性的な想像をすれば誰でもくしゃみが出やすくなるわけではなく、原因が自律神経系の混線であると証明されたわけでもありません。
現時点では、「一部の人に実際に起きているとみられるが、詳しい仕組みはまだ謎に包まれている現象」と理解するのが最も正確です。































