瞳孔の拡大は、脳の「リフレッシュ」のサインだった
さらに重要だったのは、驚いたあとの学習の仕方です。
予想外の出来事が「世界のルールが変わった」ことを意味する場合、覚醒反応が強かった参加者ほど、そこで得た情報を使って次の予測を大きく修正しました。
一方、それが単なる一時的な例外であれば、反対にその出来事をあまり学習へ取り込まず、以前の予測を保つ傾向が見られました。
つまり、驚きによる覚醒反応は、単純に「新しい情報をたくさん覚えさせる」働きではありませんでした。
むしろ脳は、「これは今後も続く変化なのか、それとも無視してよい例外なのか」に応じて、学習量そのものを調整していたのです。
また、通常の参加者は自分の予測に知覚が引っ張られる傾向を示しました。
たとえば「次も赤っぽい色だろう」と思っていると、実際に見た色の記憶も少し赤側へ偏ります。
こうした予測は普段なら知覚を効率化する助けになりますが、状況そのものが変わったときには、古い思い込みとして邪魔になる可能性があります。
実際、予想外の出来事が起きた試行では、この予測による偏りが弱くなり、特に瞳孔拡大やP3a(脳波)が大きいほど、その傾向がはっきりしていました。
チームは、こうした反応を脳の「リフレッシュ」や「リセット」に近い仕組みとして説明しています。
脳は普段、「いまはこういう状況だ」という内部の文脈を保っています。
しかし予想外の出来事が起きると、その古い文脈への依存を弱め、「状況が変わったかもしれない」と新しい情報を取り込める状態へ切り替わるのです。
瞳孔の拡大は、その内部切り替えが起きていることを外から確認できるサインの1つだと考えられます。
こうした覚醒反応には、脳幹にある「青斑核(せいはんかく)」と、そこから放出されるノルアドレナリンの働きが関係すると考えられています。
青斑核は予想外の出来事に反応して活動し、瞳孔の変化とも密接に関連することが知られています。
ただし今回の研究では、青斑核の活動やノルアドレナリンを直接測定したわけではなく、瞳孔とEEGを覚醒反応の指標として調べています。
驚いて瞳孔が大きくなるのは、単に「びっくりした」という身体反応だけではないのかもしれません。
その瞬間、脳は古い思い込みを少し脇に置き、「世界が変わった可能性」に備えて情報処理を組み直しているのです。



































