なぜ魚の「ゲロ狩り」をするのか?

なぜバブルスは魚の吐瀉物を狙うのか?
それなら、追いつめたギンガメアジをそのまま食べてしまえばよさそうです。
ところがバブルスは吐いたものを食べるだけで、ギンガメアジ本体は食べません。
研究チームが考えているのは、自分で小魚を捕まえるよりも、少ない手間で食事にありつける可能性です。
ギンガメアジは、自分で小魚を追いかけて捕まえる捕食者です。
そのため、小魚をたらふく食べたあとのギンガメアジは、お腹にイルカのエサをいっぱい抱えていることになります。
一方、イルカにとって動きの速い小魚の群れを捕まえるのは簡単ではなく、ふつうは仲間数頭で群れを追い込むという手間をかけます。
小魚がイルカにとって手間のかかる高級料理だとすれば、小魚を食べたばかりのギンガメアジは、それをぎっしり詰め込んだ高級弁当のようなものです。
バブルスのやり方なら、狩りのいちばん面倒なところはギンガメアジが済ませてくれています。
バブルスがするのは、1匹を選び、吐くまで追いかけることだけです。
食べ終えたら群れに戻って、次の弁当箱を選べばいいのです。
「この特殊な戦法は、動きの速い獲物を直接追いかけるよりも少ないエネルギーで済むのかもしれません。とくにひとりで狩りをするときには」とエドワーズ=フランシス氏は述べています。
コラム:魚もゲロる
人間は緊張やストレスで吐き気をもよおすことがありますが、じつは魚も吐きます。釣りや網で捕まったときのストレスで、魚が食べたものを吐き戻すことは以前から観察されています。吐きやすさには種類による差もあり、タラの仲間はカレイやヒラメの仲間よりずっと吐きやすいことが報告されています。
では、魚はなぜ吐くのでしょうか。
ヒントになるのが、中国の長江流域でよく見られる川魚、アオウオの子どもを使った実験です。お腹いっぱいに食べたアオウオは、向きを変える鋭さや泳ぐ速さといった逃げる力が落ちていました。ところが追いかけられると、食べたものを吐き出し、お腹の中身を満腹のおよそ半分まで減らしていたのです。満腹のまま全力で走るのがつらいのは、人間も魚も同じなのかもしれません。
つまり魚のゲロは、たっぷり食べておきながら、危険が迫ったときには余分な分を捨てて逃げ足を保つための、“緊急脱出装置”とも考えられるのです。
ギンガメアジが同じ理由で吐いているのかは、まだわかっていません。けれども、もしそうだとすれば、バブルスは魚の緊急脱出装置につけこんで、ごちそうを手に入れていることになります。
では、バブルスはどの弁当箱が満杯かを、見分けられるのでしょうか。
研究チームが注目しているのが、狩りの始まりに見せる、頭を左右に振りながらのカチカチ音です。
研究チームを率いた同大学の海洋科学者エイジア・アームストロング氏は、「エコーロケーションを使えば、イルカは標的の形や大きさ、構造のわずかな違いを見分けられます。ですからイルカは、どの魚を狙えばいちばん見返りが大きいかを、エコーロケーションで判断しているのかもしれません」と述べています。
音の跳ね返りで、魚の腹の中身まで見抜いている可能性があるのです。
声は、魚を吐かせるほうにも一役買っているのかもしれません。
狩りのようすを鮮明に録音できた75秒間の映像では、バブルスは約200回も声を出していて、その9割が低く短い声(低周波音)でした。
この低い声は、1匹を追いかけているあいだだけ出され、魚が吐くまで続きました。
研究チームは、激しいカチカチ音とこの低い声が、追われる魚の恐怖をさらにあおり、吐き出させる後押しをしているのではないかと考えています。






























