厳しい地域で育つ子どもの記憶力は劣っていたのか?

研究の舞台は、イタリアのナポリです。
比べたのは、経済的・社会的な苦しさが長く続く地区「スカンピア」と、比較的ストレスの少ない地域「ポッツオーリ」の2か所です。
参加したのは小学生357人(平均年齢は約8歳)で、スカンピアから167人、ポッツオーリから190人です。
調べたのは「短期記憶(見聞きしたものを、その順番どおりに少しの間覚えておく力)」と「ワーキングメモリ(覚えながら、頭の中で情報を動かして使う力)」です。
テストは学校の静かな部屋で、1人ずつ行われました。
パート1では、聞いた数字を同じ順番で言い返したり、研究者が紙の上の丸をたたいた順番をまねしたりする、昔ながらの抽象的な課題が使われました。
パート2では、こうした抽象的なものではなく、人に関わる「社会的な刺激」を使って記憶力を調べました。
その結果、パート1では、スカンピアの子どもたちの成績はポッツオーリの子どもたちと同じくらいでした。
ところがパート2では、スカンピアの子どもたちが短期記憶とワーキングメモリの両方でポッツオーリの子どもたちを上回ったのです。
つまり、厳しい地域で育つ子どもの記憶力は劣っていたわけではなく、人に関わる情報を覚える課題ではむしろ上回っていたことになります。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(恵まれない地域で育つと「脳の発達」が早い)
研究チームはこの結果について、厳しい環境で育つ子どもが、周りの環境で直面する困りごとに役立つ力を保ったり、高めたりしうることを示すものだとしています。
エリス氏らの考え方でも、厳しく先の読めない環境で育った人には、そうした環境を生き延びるのに役立つ社会的な力や考える力が見られやすいとされています。
ただし、この研究には限界もあります。
子どものストレスは本人が答える質問票で測られましたが、これはもともと今のストレスや不安の症状を見つけるための道具で、育ってきた逆境全体を測るものではありません。
暴力やお金の苦しさ、虐待などを子どもに直接たずねると、子どもを苦しめるおそれがある。地域の先生や支援者からそう助言されたため、こうした質問は使えなかったのです。
また研究チームは、近くの厳しい環境で暮らすロマ(ヨーロッパ各地で暮らす少数民族)の子どもたちのデータも集めましたが、人数の関係で今回の結果には含めていません。
それでも今回の研究は、逆境で育った子どもを「欠けている」とだけ見る見方に、別の角度を加えるものです。
研究者たちは、こうした力への理解がいつか教育の仕組みを変え、逆境で育った子とそうでない子の学力の差を縮める助けになることを願っています。
苦労の多い育ちは心を傷つけたり、トラウマになったりすることもありますが、その環境だからこそ育つ得意分野もあるのかもしれません。
筆者は昨日の夕飯すら思い出せないので、まずは自分の中の「隠れた才能」を探すところから始めたいと思います。




















