ミソフォニアは「うるさい音が苦手」とは違う

ミソフォニアは、単に「騒音にイライラする」というものではありません。
特定の音や、その音に結びつくものに対して、我慢できる力が下がった状態として説明される、れっきとした症状です。
きっかけの音を聞くと、怒りや嫌悪、不安、筋肉のこわばり、心臓のドキドキ、その場から離れたい・音を止めたいという衝動など、「戦うか逃げるか」の強い反応が起こります。
しかも多くの場合、主な問題は音の大きさではありません。
反応の強さは、音の種類や、その人にとっての音の意味、場面、そして誰が出した音かによって変わります。
たとえば、夫や妻、父や母がものをかむ音はとても耐えられないのに、別の場面なら同じ音でもずっと我慢しやすい、ということが起こります。
また、動物や小さな子どもが出す音のほうが、大人、とくに身近な人が出す同じ音よりも耐えやすいという人が多いといいます。
そのため、家族との食事や授業、共有のオフィス、電車やバス、親しい人との関係までもが、つらいものになりかねません。
そこで近年は、ミソフォニアを「音への我慢の問題」としてだけでなく、もっと広くとらえる見方が強まっています。音が人と人との間で持つ意味や、相手の意図の読み取り、他人の動きの受け取り方も絡んでいる、という見方です。
研究チームはこの考えを確かめるため、341人の大人に、他人の考えや気持ちを推し量る課題と、感情を見分ける課題に取り組んでもらいました。
さらに、共感の強さや自分の気持ちへの気づきやすさ、きっかけの音や動きをまねしてしまう傾向なども調べています。
では、ミソフォニアの症状が重い人ほど、心のどんな働きに違いが見られたのでしょうか。
音に耐えられない人の心で起きていたある「ずれ」

分析の結果ミソフォニアの症状が重い人ほど、他人の考えや気持ちを推し量る課題や、感情を見分ける課題で、答えの正確さが下がり、答えるまでの時間も長くなる傾向がありました。
これは、年齢や性別、音への敏感さ、不安やうつの症状の影響を差し引いて調べた結果です。
ただし、どんな問題でも苦手というわけではありませんでした。
正確さに差が出たのは、より込み入った問題や、相手の考え・気持ちを読み取る問題でした。単純な推し量りの問題や、心を読む必要のない、比較のために用意された問題では差が見られなかったのです。
また感情を見分ける課題では、前向きな感情で正確さに差が出た一方、後ろ向きな感情では差が出ませんでした。
さらに症状が重い人ほど、相手の心の状態について確信が持てず、迷いが大きい傾向も見られました。
自分自身の気持ちが何なのかをつかみにくく、アレキシサイミア(自分の感情に気づきにくい傾向)も強かったのです。
その一方で、本人が答えた共感の強さは、全体としてはおおむね保たれていました。
研究チームはこれを、自分と他人の心のとらえ方に、一部だけ乱れが生じている状態だとみています。
もう1つ目を引くのが「まね」です。
症状が重い人ほど、きっかけとなる音や動きを自分でもまねしてしまう傾向が強いことが分かりました。
症状の重さを測る質問票(S-Five)で、臨床的な目安(カットオフ)とされる87点以上だった人のうち、41%がまねをすると答えています。
このまねは、とくに「自分でコントロールを取り戻せた」という感覚と結びついていました。
結果に大きく影響しうるデータに着目した確認の分析(感度分析)でも、これらの結果は揺らぎませんでした。
もっとも、今回示されたのはあくまで結びつきであり、心の読み取りのずれがミソフォニアを引き起こすといった原因と結果までは言えない、と研究チームも線を引いています。
以前ナゾロジーではこういう記事も紹介しています(音に嫌悪感を抱く「ミソフォニア」の心理的苦痛を緩和する「飲み物」が判明)
ミソフォニアは強迫性障害やうつ、不安症などとよく一緒に見られる一方で、主な国際的な医学の分類では独立した病気として認められておらず、今も議論が続いています。
研究チームは、音への強い感情の反応が、相手の心の推し量り方や、体の動きを受け止める働きの変化と重なり合っている可能性があると考えています。
誰かのものをかむ音に耐えられない苦しみは、単に「耳が敏感」なのではなく、相手の心をどう受け取るかという、人と人との間の働きとつながっているのかもしれません。




















