編み物をドーナツに巻きつけると見えてきたもの

研究チームが使ったのは、糸やひもの絡まり方を扱う「結び目理論」という数学の分野です。
チームはまず、初心者が最初に習うような基本の編み目「シングルジャージー」の立体モデルを作りました。
そしてこのモデルを、「トーラス」と呼ばれるドーナツ形の表面にぐるりと巻きつけたのです。
ドーナツに巻きつけると、編み地の上下に「端」がなくなり、編み目の模様だけがそのまま残ります。
こうすることで編み物の模様全体が1つの巨大な「結び目」に置き換わり、結び目理論で分析できるようになるのです。
研究チームはこのドーナツの上に何段もの編み目を描き出し、1段のミスがどう広がって、生地全体がほどけるまでに至るのかを調べました。
この過程は「欠陥伝播(けっかんでんぱ)」と呼ばれ、研究チームはこれこそが「編める布」を特徴づける性質の1つだと述べています。
実際にチームは、糸の絡み合い方の制約に注目して、棒針編みやかぎ針編みをほかの布の構造と見分ける一般的な基準を示しました。
さらに、ミスがどう広がるかを見ることで、その見分け方が実際に使えるものになることも示しています。
この研究は、「どうやって作るか」という作り方と、「どれだけ壊れやすいか」という弱さのあいだに、根本的なつながりがあることを浮かび上がらせました。
今回の研究に参加していない、ドイツのコンストラクター大学の応用数学者アレクサンダー・オメルチェンコ氏は、ミスの動きを描いたこの研究を「とても独創的なアプローチだ」と評価しています。
そして、ここからが本題です。
分析を終えた立命館大学の物理学者ダイスケ・S・シマモト氏は、結び目理論の基本的な操作を使って、新しい編み目を設計しました。
それが「ロバストニット(頑丈な編み目)」です。
ロバストニットは、大きく弧を描くループが1目ではなく2目をまたいで交差する、少し複雑な編み目です。
この編み目でも、ほつれが広がること自体は起こります。
しかしそのほつれは、1段下がるごとに小さくなっていき、やがて止まってしまうのです。
ほつれが逆に大きくなっていくのは、1つの段で2目以上を落とした時に限られるといいます。
つまり「一度ほつれたら最後」だった編み物の弱点に、数学で歯止めをかけたというわけです。






















